第7話 ドキドキしない女子との体育



 七時間目、本日のラストは体育の時間だ。

 あれから実習の間中、大麻から睨まれ続けて俺は生きた心地がしなかったがこれさえ終われば後は帰宅するのみ。


 さあ残り四五分を全力で、


「よーし、じゃあ男女に分かれて、というか新川と白石だけこっちな」

 わ、忘れてた、本日最後のヘルタイム!


 家政科には普通女子しかいない、だから体育の時間は女子だけのきゃっきゃっうふふ、な時間だが今年は俺と泉美がいるせいで例外な年なのだ。


 さすがに男女一緒に体育を行わせるわけにはいかないので、体育の時間は男子の俺は泉美と二人で授業をするのだ。


 しかし俺は先週の悪夢を忘れていない。


 体育の時間は準備体操の後にバスケットボールでボールパスをするのだが……


「ダァーリィーン♪」


 俺のペアは必然的にこいつである。


 女子用の赤い短パンと赤いラインの入ったTシャツを着た戸籍上男の女は、


「きゃは♪」


 と可愛い笑顔を見せながら両腕でボール抱き、ギュッと胸に押し当てる。


 泉美が男だと知らない連中が見たら全員理性を失うだろうが俺にはただキモくしか見えない。


 てかこいつが男だと知ってるのは多分、学園でも俺だけだろう。


 そしてそのAカップも無い胸に押し当てたボールになど触りたくないのだが……


「あたしの愛を受け取ってぇー♪」


 ふわり

 と山なりにボールが飛んでくる。

 柔らかい球筋の奥で跳びは跳ねる泉美。

 その周りには泉美の放つラブリーオーラでお花畑が見えるが、


「死ね泉美!」


 バレーボールのアタッカーが如く打ち返す。

 パス練習?

 あんな呪われたボールには一秒たりとも触っていたくないね。


「ダァーリィーン♪」

「くたばれ泉美!」

「ア・イ・シ・テ・ルぅー♪」

「堕ちろ泉美!!」

「イヤよイヤよも好きのうちぃーん♪」

「キエェエエエエエエエイッ!!!」

「ちゅ あたしの初めて貰ってぇー♪」


 ヤバイ、あの野郎今ボールにキスしやがった。

 あんな球、弾いても精神的に病院、いやお寺行きだぜ。


 ここは姉さんの猛攻をかわすべく身に付けた秘奥義、マトリクス避(よ)けで……


 全身が、心臓に杭を打ち込まれたような悪寒に満たされたのはその時だった。


 視線の先、泉美のさらに後ろで一人ペアになれずに余った大麻がこちらを見ている。

 ヤクザも逃げだしそうな程に鋭利な視線、無言の圧迫で体がひしゃげそうだ。


 殺される。

 きっと俺はこのあと殺される。

 首をもがれて内臓を喰われ拾う骨も残らずグシャグシャにされるんだ。


 そんな必殺の予感に体が硬直して、泉美のラブボールが顔面に当たった。


「ぶはっ!」


 こんな時だけふんわりボールじゃなくて剛速球で投げやがった。

 鼻が痛い。


「ダ、ダーリーン!」

「ちょっとあんた何やってんの! 春人大丈夫?」


 泉美と加奈子が駆けよってくる。


 別に鼻が折れたわけじゃあるまいし、たいした事はないのだが、首を起こせばまた大麻の視線の餌食になると思うと俺は体を起こせなかった。


 くそぉ、俺が何をしたっていうんだ……








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