第4話 俺が無知なの? 俺がバカなの? 俺が変なの? 俺死ぬの?
「え? 隣の席?」
「ああ、座席表には大麻(たいま)って書いてあるけど一回も登校してこねーじゃん、名前が麻薬と同じ名前だからどんな奴か興味あったんだけどなー」
昼休み、俺らは机をくっつけてお弁当を広げる。
とは言っても加奈子の弁当は俺が作ってくるのでこいつは俺の配膳が終わるのを待っている。
上げ繕据え膳とはまさにこのことだ。
こいつが結婚したらさぞ亭主関白になるんだろうな、まあこいつは一応Cカップのおっぱいを搭載したまごうことなき女の子ですが。
「おい、泉美は何か知らな、ってどうした?」
そこには希望を失った顔でハシを握りしめる泉美。
バカな、こいつのテンションが下がるなんて加奈子の料理がおいしくなるくらい有り得ないぞ。
まさか、神様がようやく俺の願いを聞いてくれたのか!?
ありがとう神様これからは毎日神社にお賽銭もお参りもしないけど小さく『ありがとう』って言うよ。
「ダーリン知らないの!? 超有名だよ!? 氷の女王、鉄血の女帝、歩く自然災害、現代の魔王、入学式から来ないのだってここら一帯の勢力潰して回ってるからだって有名だよ」
いや、初耳ですが……
俺達のそんなやりとりは、廊下のざわめきで一時ストップ。
「なんだ?」
と振り向くと、廊下から女子達の悲鳴が次々に上がり、逃げる足音、転ぶ音が混ざって負のシンフォニーを奏でる。
ガラリ
教室のドアが開いて、ソレが入って来た。
「大麻(たいま)が来た」
「あのA級喧嘩師が」
「Tレックスより強い奴が」
「地上最強の生物が」
「オーガが」
「もう俺の学園生活終わりだ」
「オーマイガーット!」
「ナンマンダブ、ナンマンダブ」
えっ? みんな知ってるの?
俺が無知なの?
俺がバカなの?
俺が変なの?
俺死ぬの?
そして加奈子が一言。
「へー、大麻(たいま)って有名なんだ」
ちょっと待て!
まさか俺の常識レベルは加奈子と同じということになるんじゃないか?
ストップストップ、俺がこんな体育以外はオール一しか取った事が無い奴と同レベルなんて神様あんた脚本の書き方間違ってるぜ!
なんて思ってる場合じゃない、あれが大麻か……
「…………」
遠目に見た大麻の姿ははっきり言うと、
美人だった。
切れ長の目は長いまつげに縁取りされて、大きな瞳が周囲を射抜く。
抜けるように白い肌はガラスや氷の印象を受ける。
なるほど、確かにこれは氷の女王だ。
他にも筋の通った鼻や形の良い眉の美しさはトップモデルの比じゃないだろう。
加えて男子の俺に迫るモデルのような長身、クラス中の女子が幼児体型に見えるほどのプロポーション。
外見に限って言えば、大麻は今まで見たどんな女性よりもイイ女だった。
クラスの連中が壁際で震える姿に一瞥もくれてやらず、大麻は一歩、また一歩とこちらに歩みよってくる。
こんな美人で現代の魔王などと言われる人がなんで俺に?
そっか、そういえばこいつの席俺の左隣だもんな、うん、左隣……
目標との距離が二メートルまで近付いたところで、魔王の瞳がスッと俺を見た。
「!?」
瞬間、俺は殺された。
恋に落ちたとかそんな甘い意味じゃない。
本当に、
言葉のままに、
完璧に、
愛のままにわがままに……はB’zだから関係ないけど、
とにかく俺の心は大麻に睨まれただけで殺された。
鉄血の女帝とはよく言ったもんだ。
その鋭い目に宿した迫力に、
彼女が放つ威圧感に圧倒されて、俺は人形のようにかたまったまま動けなくなって、はっきり言うと、
超怖えぇええええええええええええええ!!!
何あれなんなのあの未来からきたキリングマシーン!!?
シャギーの入った鋭い茶髪も鋭い視線も最初はちょっと美人とか思ったけどもう恐怖しか感じねーよ!
ヘルプユー加奈子&泉美!
「…………」ガタガタ
「…………」ブルブル
地震警報か!?
なんで机の下で震えてんだよ!
俺(ヨメ)のピンチを見過ごすとは絶対てめーのお嫁さんになんかならねーからな!
泉美も男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強という言葉を知らないのか!?
さっさとこの生きた自然災害と戦い、俺の為に散れ! 骨は拾ってやるから!
ぎゃああああああああああああ!!
とか考えてる間にもう目の前まで、
「…………」
無言のままに通り過ぎる大麻。
そして鞄を自分の机に置いて、席に座ると窓のほうを向いて動かなくなる。
何これ?
マンガのミステリアスキャラみたいな光景だけどなんで俺を見たんだ?
俺はてっきり今日の肴(さかな)となる獲物を見つけたのかと、
…………
昼の陽光に照らされ、一人でたそがれる大麻の印象は、
やっぱり怖い
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