第27話 最強の対戦相手

「不知火に八月朔日ぃいいいいいいいい!?」

「あ、真理亜さんと優華さんです」

「って、冷静に言っている場合じゃないぞ心愛! なんでよりにもよって最強ペアが相手なんだよ!?」


 一〇メートルはありそうな天井から、姉さんの声が聞こえて来る。


『仕方ないでしょ弟ちゃん。子府が弟ちゃんとコピー元の優華ちゃんが戦ったらどうなるかデータが欲しいって言うんだから』

「だからって力の差がありすぎるだろ!」

『文句はあとでね、じゃああらためてルールを説明するわよ』

「おいぃいい!」


 俺のツッコミを無視して、姉さんは明るい口調で説明を始めた。


『ルールは単純。二人揃って力を消費しつくして気絶する喪失状態か、その前段階、体がだるくなって意識が薄くなる半喪失状態になったほうの負けよ。セカンド同士での戦いは始めてかもしれないけど安心して。貴方達の防護力は超能力にも有効だから、相手に大けがをさせる事も無いし、相手の攻撃を受けても大けがをすることはないわ、たぶん』


「たぶんかよ!?」


『まぁ、防護力を遥かに超える超攻撃を受けたらそりゃ死ぬでしょ? お姉ちゃんだってゼロ距離から戦艦の主砲喰らったら死ぬと思うし。まぁそれだけの攻撃が貴方達にできたらの話だけどね、あはは』


 まぁ……たぶん俺らの中で最強なのって不知火の二二〇〇度の炎だろうけどさ。


 ちなみに、それ以上の温度で爆発する爆弾やミサイルは存在する。


 そのかわり、不知火の炎を一発でもまともに浴びれば、防護力だけで力を使いはたして喪失状態になりそうだ。


『この戦いは撮影されていて、後で編集したものを上層部に提出。試合内容を審査して、みんなのランクが決まるわ。じゃあもう開始していいから頑張ってね』


「うわ軽ッ!?」


 ゴングとかねぇのかよ……


「いきましょう、良人くん」

「え? お、おう!」


 意外にも俺の横に立つ心愛が、すぐに両手を前に突き出した。


 不知火と八月朔日は臨戦態勢すら取らず、ただそこに立っていた。


 よ、余裕あり過ぎるだろ……


 俺が軽くショックを受けると、心愛の両手から水流が放たれる。


 俺なんかとは違う、まるで鉄砲水のような勢いだ。


 でも、不知火達は左右に分かれて回避すると、八月朔日が手から金色の雷光を放った。


 バチッとスパーク。同時に、金色の光がジグザグに空気中を走る。


 電撃は水流の中に吞みこまれて、心愛が悲鳴を上げる。


「心愛!」


 水流を止め、フラつく心愛を支える。


 八月朔日は気品に染まる表情を変えず、冷静な口調で言う。


「どのような水流を撃とうが、貴女の体から出ている以上、ワタクシの雷撃は必ず貴女を焦がしますわ」


 口を動かす間にも、八月朔日の手の中で特大の雷球が成長していく。


「ならっ」


 心愛が立つ。八月朔日が雷球を放つ。


「これでっ」


 心愛の手からでは無く、足下から溢れだした水が前にせり出して壁を作った。これなら心愛の体からは離れているから、感電はしない。


 案の定、雷球は水の障壁に吞みこまれてしまう。


 でも俺と心愛に喜ぶ暇なんて無かった。


「じゃあ次はあたしね!」


 透明な水の壁。その向こう側で、不知火が両手を前に突き出した。


「いくわよ! これがあたしの、バーストストーム!」


 漫画のキャラみたいに技名を叫ぶと、不知火の手から特大の鉄砲水ならぬ、鉄砲火炎が噴き出した。


 強い光を伴った、まるで閃光のような灼熱の炎が水壁に激突。


 水柱が炸裂して、煙幕のような水蒸気が辺りを満たそうとする。


「やべ! 心愛!」


 危険を察知した俺は、咄嗟に心愛を抱きよせる。


 俺の予想通り、白い水蒸気の煙幕の中から、赫灼の爆炎が俺らに襲い掛かる。


 いくら防護力越しでも、こんなものを心愛に喰らわせるわけにはいかない。


 なのに心愛は、突然水流で俺を突き飛ばした。


 全身に水圧を浴びた俺は人形のように転がって、床に頭を打った。


「心愛!」


 慌てて体を起こすと、心愛が炎の嵐に吞みこまれる光景が展開されていた。

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