第26話 ペアバトル当日

 ペアバトル当日。


 俺と心愛は実験場へと続く廊下を歩いていた。


 対戦相手は不明。


 予備知識がない相手でも戦えるか、それも重要な審査対象らしい。


 つまり、俺らの元ペア相手、不知火&八月朔日コンビということもありうる。


「心愛。相手が誰でも、絶対に勝とうな」

「はい……良人くんはこの一週間で、すごく超能力が上手くなりました。水と炎の両方を使える良人くんがいてくれるとこころづよいです」


 俺を安心させるような温かい笑顔。でも、俺は心愛の笑顔に隠された過去を思い出して、素直には安心できなかった。


 あの日、心愛は転校して俺と離れ離れになった後の事を教えてくれた。セカンドに目覚めた心愛は、すぐにみんなの人気者になったらしい。


 中学でも人気は相変わらずで、みんな優しくしてくれた。でも、ある日のプール授業でそんな日々は終わりを告げる。


 水属性を操る心愛は、毎年プール授業では自由時間に水流を発生させたりしてみんなを楽しませていたらしい。


 その日もいつも通り、心愛は水流でみんなを飛ばしたり、波を起こしていた。でも、急に友達の女子が心愛に絡んできて、心愛は手元が狂ってしまった。


 結果、一部の生徒はケガをして病院へ搬送。


 セカンドが優遇される時代で、事故である事も証明されて大ごとにはならなかったらしいが、生徒達が心愛を見る目は一日で逆転した。


 人を病院送りにできる水流を自由に出せる、歩く人間凶器。


 あれはわざとだったんじゃないか。怒らせると何をするかわからない。


 そう噂された心愛は、中学ではずっと孤立していて、そんな時にSGTに勧誘されたらしい。そして、セカンドしかいない学校なら友達ができると思い逃げるように入学した。


 俺は、そんな辛い時に心愛のそばにいてあげられなかった事が悔しい。それに、ずっと孤立していたからこそ、きっと俺と再会できた時は凄くうれしかったんだろう。


 今思えば、いきなり俺に好きだと告白したのは、一人でいる不安から俺への想いが溢れてしまったのかもしれない。


 みんなに嫌われて、かつて自分に優しくしてくれた男の子に再会して……でも俺は心愛の気持ちも知らずに、それを断ってしまった。


 心愛は、その笑顔の下にどれだけの悲しみを隠しているんだろう。


 恋愛感情とは関係無く、俺は心愛を守りたい気持ちでいっぱいだった。


 彼女の恋心に応えてあげられるかは解らない。


 でも、幼馴染として、一番の親友として、俺は心愛を支えたい。その気持ちだけは本物だった。


「良人くん」


 心愛に呼びとめられて、俺は横を歩く彼女を見下ろした。


「わたしの力は放出系の水属性で、戦闘向きの能力じゃありません。水流で相手を飛ばしても、威力はたかが知れています……」


 温和な表情を曇らせる心愛。でも、すぐにまたいつもの温かさを取り戻してくれる。


「でも、防御だけは任せてくださいね。炎を使える良人くんなら勝てるって、信じていますから」

「……ああ、攻撃は任せろ。銅も溶かせない俺のライターフレイムだけど、やれるだけのことはやってやるさ」

「はい♪」


 俺らは笑みをかわし合って、実験場への入場口へと足を運ぶ。


 実のところ言うと、この一週間で俺は滅茶苦茶属性操作が上達した。でもそれは技術面だけで、出力はまるで上がっていない。


 けど餅前の器用さで技術面には自信がある。


 俺らと同格程度のペアと当たれば、勝機はある。


 そう自分に言い聞かせて、俺は入場口のドアの解錠ボタンを押した。


 SF映画に出て来そうな分厚い金属のドアが、力強く圧縮空気の抜ける音を鳴らして斜めに開いた。


 実験場は学校の体育館ぐらいの広さで、何も無い真っ白な空間だった。


 反対側のドアが開いて、対戦相手が姿を現した。


「あれ? 新妻?」

「心愛さん?」


 長い赤毛の美少女と、黒髪縦ロールの美少女が歩いてくる。


「不知火に八月朔日ぃいいいいいいいい!?」

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