第24話 初恋相手との再会



「良人くん、アイスですよ」


 心愛に声をかけられて、呆けていた俺は気がつく。


「っとと、すいません、今財布出します」


 俺は清算を済ませ、店員さんからアイスを受け取ると、心愛にアイスを手渡した。


「ありがとうございます良人くん。ふふ、冷たくておいしいです」


 心愛はさっそく一口なめて、美味しそうに笑ってくれる。


 本当に、いつも穏やかで笑顔の絶えない子だ。


 心愛の笑顔は包容力に満ちていて、見ているだけで落ち着くと同時にドキドキさせられる。本当にどこまでも、矛盾した魅力を持つ幼馴染だなぁ。


 俺は自然と、心愛の存在を強く意識させられながら外へ出た。


 歩きながら、俺はまた、心愛について考えさせられる。


 こんなにも俺を愛してくれる心愛と付き合ったら、俺は絶対幸せになれると思う。


 逆に、心愛を逃したら、もう心愛以上の子なんて、一生現れない気がする。


 そんなふうに俺が悩みながら歩いていると、心愛の顔が一点に向けられる。


「良人くん、本屋さんですよ。寄って行きますか?」

「いや、今はいいよ。欲しい本はこの前、買ったばかりだし」

「良人くん、昔からSF作品大好きでしたもんね」

「ああ、この前買ったのは、千年後の地球を舞台にしたパワードスーツバトルモノだぞ」


 一緒に巨乳モノのエロ本も買ったけど、とは言わない俺である。


 俺の行きつけの本屋には、中高生相手に一八禁本を売ってくれる、菩薩のような店員がいる。利用者から『性義の味方』と信奉されるあの店員には、お世話になりっぱなしだ。


「パワードスーツですか? 昔は巨大ロボットでしたよね? それもSFですか?」

「ああ。それに今でも巨大ロボも好きだぞ。ただ最近はパワードスーツにも心惹かれるものがあるんだよ」


 心愛の言う通り、俺はSFモノが大好きだ。


 実のところ言うと、俺の趣味がネットサーフィンなのも、ソレが原因だ。


 幼い頃から知りたがりだった俺は、大好きなSFモノを見るたびに『ビームって具体的になんだろう?』『メガ粒子砲の粒子って何だろう?』とか思って、その度にネットで調べていたら調べ物が面白くなってしまった。


 以来、SF作品にも使われていないようなSF、サイエンスフィクションな知識をネットで吸収し続けている。


「良人くんは、昔から変わらないんですね」


 そう言われて、俺はとっさに陳腐な言葉が口を突いて出た。


「子供っぽいだけだよ。心愛は、すっごく綺麗になったけど」

「……~~」


 心愛は桜色の唇を硬くすると、恥ずかしそうにうつむいてしまう。


 うあぁ、なんか今のキザっぽい。


 俺が自己嫌悪していると、心愛はうつむいたまま、大きな瞳で俺を恨めしそうに見つめて来る。


「ひどいです良人くん。そんなこと言われたらわたし、期待しちゃうじゃないですか」

「ッ!?」


 刹那、俺は心臓をわしづかまれた感覚に襲われる。


 そう思うぐらい、心愛に気持ちを締めつけられた。


 一番重要な事だけど、心愛は俺に告白済みだ。


 今、心愛はどんな気持ちなんだろう……告白したら、他に好きな人がいると断られて、そんな状態で、どんな気持ちで俺の側にいるんだろう。


 そう思うと、俺はたまらない気持ちになってくる。


 俺が葛藤すると、心愛がふと呟いた。


「アイス、もうなくなっちゃいますね」


 言われてみれば、もうアイスはコーンからわずかに盛り上がる程度だ。


 デートのゴール。駅前についてしまうと、心愛は立ち止まって俺を見上げる。


「良人くん、最後に、フルーツミックス味を食べませんか?」

「ミックス?」

「はい♪ あむ」


 心愛はこどもっぽしぐさで、俺のメロン味アイスにかぶりついた。

 それから、自分のマンゴー味アイスをかじる。


「あー、両方食べるってことか。じゃあ俺も心愛のを一口もら――」


 人の往来が激しい駅前。そんなところで心愛は俺に抱きつくと、口移しでアイスを食べさせてくれた。


 俺の口いっぱいに走る、メロンとマンゴーのみずみずしい甘さ。でもすぐに、無味でありながら全てをかきけすような刺激が広がる。


 幸せの味、としか形容できないソレを堪能させてもらってから、俺の視界に心愛の顔が映った。


 唇が離れると、心愛は名残惜しそうに自身の唇を指でなぞる。


「良人くん、あんまりうれしいことをされるとわたし、がまんできなくなっちゃいますよ」

「あ……うん……」


 それしか言えなかった。

 いまさら頭の中が真っ白になんてならない。

 でも、俺は心愛の方からキスをされて、自然に嬉しかった。


「心愛……」


 心愛との思い出が一気に噴き出す。

 俺と心愛は、幼稚園の頃からずっと一緒だった。

 小学校でもずっと一緒だった。


 夏祭りの金魚すくいで、金魚が取れない心愛の為に金魚をすくった。でも心愛は優しいから、迷子の子を泣きやませる為に金魚をあげてしまった。俺に謝る心愛に、俺は射的で金魚のぬいぐるみを取ってあげた。


 学校のスキー体験で俺がコースをはずれて迷子になると、心愛は一人でずっと俺を探し続けてくれた。俺を見つけた時、心愛は凍えていて、俺は心愛に俺のスキーウェアを着せてみんなの所に帰った。


 そのあと俺は風邪をひいて、心愛は看病に来てくれた。そしたら今度は心愛に風邪が移って、今度は俺が看病をした。


 心愛は俺のことならなんでも知っているし。俺も心愛のことならなんでも知っている。


 俺の胸に、心愛のことを世界で一番大切にしたい衝動が湧きあがる。

 俺は、心愛の手を握り直そうとして、とある声に遮られる。


「あら、奇遇ですわね心愛さん」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る