第21話 ファーストキス
「それでもいいですよ」
「え?」
俺が首を回すと、月見里はおっとりぽわぽわ、とても優しい顔で笑っていた。
「だってわたし、良人くん好みの女の子なんですよね? じゃあ、わたしにもチャンス、ありますよね? 良人くんのこと、好きでいてもいいですよね?」
それっていいのかな?
と疑問に感じながら、月見里のきらきらと輝く瞳に見つめられて、俺は息を飲んだ。
「い、いいけど。でも、俺が月見里の気持ちに応えられるか解らないし。なら他の男を探したほうが青春を無駄にしないんじゃないか?」
俺は今、すっごくもったいない事をしている気がする。
救いようが無いほど下衆な考えだけど……こんな可愛くて、おっぱい大きくて、程良くえっちで、しかも優しくて尽くす系の女の子に付き合って欲しいって言われて断るとか、一生後悔するに決まっている。
でも俺は、幼馴染の月海と、いや、月見里と中途半端な気持ちで付き合いたくなかった。
冷静に思いなおす。
俺が好きなのは初恋の相手、あの八月朔日だ。
八月朔日ちゃんと俺の気持ちを伝えてフラれたり、八月朔日に彼氏ができて、それで俺が八月朔日の事をきっぱり諦めた後で……その上で両想いにならないと、駄目だと思う。
「良人くん」
月見里は、恋心を感じさせる不思議な声音で告げる。
「わたしは彼氏が欲しいわけでも、恋に恋しているわけでもありませんよ」
月見里は、今まで変わらない笑顔で言う。
「わたしは、大好きな良人くんの彼女さんになりたいんですよ」
「~~~~ッッ!」
俺はまた、たまらない気持になってしまう。
男として、こんな可愛い子にこんなに強くアプローチされて、色々なものが色々と大変な事になっていく。
「良人くん。責任をとってくれないなら、代わりにお願いがありますぅ」
「な、なんだ?」
月見里が俺に体重をかけてきて、じょじょに顔が迫って来る。
俺の腕から手を離して、月見里の両手が俺の首に回される。
「良人くん。心愛って呼んでください」
「こ、心愛?」
「ちゅ♪」
心愛の唇が、俺の口を塞いだ。熱い舌が、俺の口内を積極的に求めてきて、俺の舌を吸って、甘噛みして、俺は何も考えられずに全てを任せてしまう。
長風呂でもしたようにのぼせた俺は、ソファに背中を預けた。しばらくしてから、ようやく心愛の口が離れる。
俺と心愛の唇をつなぐ、透明な唾液の線がプツっと切れた。
熱く濡れた眼を至近距離まで近づけて、心愛は囁く。
「ふふ。ファーストキス、初恋の男の子がもらってくれました。良人くんの初恋よりも、一歩リードですね」
今、頭の理解が追い付いて、俺は歯を食いしばる。
「じゃあ良人くん。もしも良人くんの初恋が悲しいことになっちゃったら、わたしをえらんでください。でも、その前にわたしのほうがいいなって、そう思ってくれたら、すぐにおしえてくださぁい」
心愛が俺に体重を預ける。
ソファの上に寝そべって、俺が下で、心愛が上で、俺はぎゅっとされてしまう。
今まで散々我慢しておきながら、とうとう俺は我慢できず、心愛の体をぎゅっとした。
「ここあ……俺……ッ」
ぎゅっとした瞬間。とうとう俺は理性の鎖が千切れた。
もう無理だ!
心愛の胸の感触が、匂いが、体温が、もう……心愛の全てを、俺のモノにしたい!
そして俺が心愛を、醜い欲望で抱きしめた途端、俺の手から水柱が上がった。
「きゃっ」
「おわっ」
一瞬で脳味噌が冷却。
俺と心愛が上半身を起こすと、俺の手から水が流れ落ち終わる。
「そっか、心愛とキスしたから……ていうか俺のスロットって二つになったんだ……」
とか一人で納得していると、心愛の顔に軽く衝撃が走る。
「キスがコピーの条件ていうこ事は、じゃあ良人くんの初恋の人って、優華ちゃんだったんですか? それに、もうキスまで、さっきは告白する勇気もないって言っていたのに」
どうやら俺と優華が組まされた事から、俺の火炎能力は優華からコピーしたものだと推測したらしい。
「いや! これは優華からコピーしたものだけど、初恋の人は別だ!」
「え!? 好きでもない優華ちゃんとキスしたんですか!? それとも優華ちゃんの方から!? そんな、恋のライバルが優華ちゃんなんて、わたし勝てないじゃないですかぁ!」
心愛は目に涙をためて、顔をくしゃくしゃにしてしまう。
俺は心愛を安心させるために、一気にまくしたてる。
「ち、違うよ心愛! 優華とは転んだはずみで事故でキスしちゃったんだ! 優華なんて俺の事を憎んでいるぐらいだぜ! でもこの事は内緒な! 俺は優華と付き合う気なんてないよ!」
「でも、良人くんはさっきのファーストキスじゃなかったんですよね?」
「それはそうだけどっ。ッッ、心愛それ……」
「ふえ?」
俺が出した水のせいで、心愛の私服であるブラウスは濡れて、ブラジャーが透けてしまっていた。
「やぁん」
大き過ぎる抱き隠す、心愛。
今までストレートエロだったのに、途端にこのギャップ。
俺は妙な興奮と共にまた鼻血を出して、意識が遠のいた。
心愛に体重を預けるようにして倒れ込んで、心愛のやわらかい体に抱きとめられる。
「お、良人くん!? だいじょうぶですか良人くん! 良人くん!」
意識を失う直前、俺は心愛の感触に包まれて、安らかに逝った。
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