第20話 おっぱいの大きな子は嫌いですか?


「いいから、答えてくださいっ」


 語気を強めて問いただしてくる。


「そりゃ、きき、嫌いじゃないよ。好みは人それぞれだと思うけど、俺は、お尻の大きな子は……好きだよ」


 月見里は、泣きそうな顔でさらに尋ねる。


「じゃあ、おっぱいの大きすぎる子は嫌いですか?」

「~~~~~~~~~~ッッッ!」


 今度は、月見里の爆乳で頭の中がいっぱいになる。


 あの、大きさ、形、色艶、バランス、やわらかさ、弾力、張り、全てが完璧以上に完璧なセクシーバストのおかげで、俺の血圧は何倍にもなって、また鼻の奥に血の匂いが充満する。


 醜い感情と欲望が成長して、鋼のように硬くなっていく。鋼の意志だ。


「いや月見里、それはさっ。女の子をおっぱいで判断するなんて最低だけど、でも俺も男だし、小さい子が嫌いなわけじゃないけど、でもやっぱり、小さいのと大きいのなら大きい方が好きだし、それに、大きすぎるっていうけど、大きすぎるぐらいのボリュームが逆に男心をくすぐるっていうか……」


 月見里のうるんだ瞳が、俺の心臓に杭を打ち込む。


「だ……大好きです」


 俺の腕を抱き寄せる月見里の腕が、いっそう力を強める。まるで、俺をどこにも行かせまいとするようだ。


「じゃ、じゃあ、好きな男の子と一緒にいるだけで…………」


 言葉に迷う様に口をもごもごさせてから、月見里は言葉を選んだ。


「ぎゅっとしてほしくなっちゃう、えっちな子は嫌いですか?」


 ストレートな質問に、俺はいよいよ我慢が利かなくなる。


 月見里の裸の記憶と、今腕に伝わる感触が一体となる。


 破裂しそうな心臓が、きゅーっと痛くなりながら、妄想が膨らむ。


 このカラダを抱きしめたら、俺はどうなってしまうんだ!?


 醜い欲望が暴れ回る。また、この先の人生を全て棒に振ってもいいからと叫び出す。

 そこはまた、月見里の笑顔を守る為と抑え込んだ。


「俺は、好きだよ。俺も、好きな子とはいちゃいちゃしたいほうだし。相手も同じなら、いちゃつきやすいだろ?」

「じゃあ、じゃあ……じゃあ……」


 月見里は何か、追いつめられるような雰囲気で目に涙を浮かべたかと思うと、紅色の顔が緋色になってしまう。


 今度はなんだろう。でもここまで来たらもう、どんな質問にでも答えてやる!


 俺は、決意だけは硬く固める。全身の血液を沸騰させて、抱かれる腕を中心に全身をしびれさせて、醜い欲望を無尽蔵に逞しくさせながら次の質問に備える。


「あの……ですね…………」


 大きな両目に涙を溜めて、顔の緋色は耳どころか首の下まで広がって、服の下まで広がっているかもしれない。震える声で、何かの恐怖と戦うように彼女は口を開く。


「お尻とか、おっぱいとかは……不自然に成長しているのに……部分的にまったく成長しない、いびつなカラダの女の子は嫌いですか?」

「部分的って…………」


 俺の視線が、月見里の大きな瞳からふくよかな胸、細いお腹周り、下腹部へと落ちて、さらに下がった。


 ソファで仰向けに眠る、月見里の裸を思い出した。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッッッッッッッ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


 俺は左手で鼻を押さえる。溢れた血が喉の方に逆流して片っ端から飲みほした。腰の骨がトロケてしまったように、腰から下にまるで力が入らない。


 とうとう醜い欲望が、月見里の笑顔を守る事すら放棄させようと俺に襲い掛かる。


 もう耐えられない。しんぼうたまらない。俺は悪くない。これから起こる事は、全部全部みーんな月見里が悪いんだ!


 その感情を、幼馴染である月見里を大切にしたい気持ちで必死に抑え込むのに、その月見里自身の魅力がそれを許さない。


 何も答えず、内なる自分と戦い続ける俺を見て、とうとう月見里の目から涙が溢れそうになる。


 答えないと言う事は、嫌いなんだ。そう解釈しているんだと思う。


 月見里は、聞いた事を後悔するように顔を悲しみに歪める。涙を噛み殺すように唇を硬くする。そして視線を落とした……途端。


「ふえ? …………ッ‼‼‼?」


 月見里の顔が、鮮血の赤(ブラッディ・レッド)に染まり切った。


「お、良人くん」


 死にそうな程、顔を赤くした月見里が、俺の肩に顔をうずめて、俺に目線を送る。


「あ、ありがとうございます……お、良人くんの気持ちは分かりました。でも……おっとくんはえっちくんです」

「ど、どうした? 俺何も言っていないぞ?」


 さっきの月見里と同じく、俺は視線を落としてみる。


 俺のジーンズは、下半身の生理現象でパンパンになって破ける寸前だった。


「アぐッ‼ こ、これは‼」


 俺は両手でズボンを押さえながら前屈みになる。


 月見里は、相変わらず俺の腕に抱きついまま、表情を嬉しそうにはにかませた。


「良人くん。わたし、見た目だけじゃなくて、中身も良人くん好みになるよう、がんばりますね」


 俺は恥ずかしさと喪失感がぐちゃまぜになった感情で、声を絞り出す。


「いや、月見里は優しくておとなしくて、中身も俺好みだよ」


 月見里の顔が、パッと明るくなる。幸せを噛みしめるよう笑って、俺の肩に顔をうずめてほおずりしてくる。


「でも、さっき言ったみたいに、他に好きな人いるから、だから、今すぐ月見里と付き合う事はできないんだ……ごめん」

「それでもいいですよ」

「え?」


 俺が首を回すと、月見里はおっとりぽわぽわ、とても優しい顔で笑っていた。

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