第17話 リベンジ全裸
「お前、あのツキウミ!?」
素っ頓狂な声を上げる俺に、月見里は『そうですっ』と言って、両手を腰の横でグーにして立ち上がった。
ちょっ、そんな事したらまた全部見えるからぁ!
俺の鼻から、熱い血潮が吹き荒れる。
「お父さんとお母さんが誤解で離婚して復縁して今度はお父さんが婿養子になったからお母さんの月見里姓ですけど、幼馴染の心愛ですっ。名前が同じなんだから気づい――」
俺の鼻から溢れる血の勢いに気づいて、月見里は腰に添えた手で体を隠しながらしゃがんだ。
「はうぅ……」
「いやだって、月海、名字もだけど、ていうかセカンドなのか!?」
「転校したあと、すぐに覚醒したんですっ」
「髪も前は短かったし」
「伸ばしたんですっ」
「髪の色が全然」
「中学生になってから急に変わっちゃたんですっ」
「体型……は、月海、小学生の頃から、発育はいいほうだった、よな」
「……はぃ、あれから、とまらなくてぇ……いまでもまだ……」
恥じるように、腕をさらに胸におしつけた途端、月海のおっぱいがつるんとすべって跳ねあがり、腕の上に乗った。
「はうわっ!?」
今度は両手でしっかり抑え込む。しゃがんでいるから、下半身はちゃんと隠せているけど、ふとももの間から左手を引きぬく瞬間、ちょっと見えてしまって、俺の血圧は上がりっぱなしだ。
って、待てよ。
月海の裸に夢中でしょうがない俺は、重大な事に気づいた。
月見里の正体は幼馴染の月海で、月海はそれを知っていた、という事はだ。
俺は、おそるおそる尋ねる。
「あの……月海さん? もしかして、じゃあ名前呼びだったのは?」
「? わたし、もとから良人くんのこと、名前呼びでしたよ?」
「じゃあペアを組んで嬉しそうだったのは?」
「だって幼馴染の良人くんと一緒なんですよ、知らない人と組まなくてよかったですぅ」
「じゃあ俺を家に呼んだのは?」
「それはボタンをぶつけちゃったお詫びですけど、わたしの部屋なんて今さらですよね?」
「じゃあ合いカギを渡したのは?」
「子供の頃、おたがいに家のカギの隠し場所は知っていましたし、ならもう持っていてもらおうと思いましてぇ」
「……じゃ、じゃあわざわざお風呂に……いや、もういいや……」
俺は全身の力が抜けてしまって、これ以上は何も聞く気になれなかった。
つまりは、そういう事なのだ。
月見里は俺に一目ぼれしたとか、美少女との恋愛フラグが立ったとかじゃなくって、ただ気心の知れた、慣れ親しんだ幼馴染に昔と同じように接していただけなのだ。
「はぁ……」
俺はその場に膝をついて、力無く座り込んでしまった。
何だよさっきまでの俺。カッコつけて『月見里の気持ちに気付いた』とか思っちゃったりなんかして、どんな勘違い野郎、いや、ピエロですか俺は?
「あのぅ……」
「ん?」
俺と同じ目線の月見里が、はずかしそうにもじもじと、体をもぞもぞとさせながら、ためらいがいに自分の気持ちを口にした。
「良人くん、いつになったら、わたしにパンツをはかせてくれるんですか?」
「え!?」
目の前で、全裸の爆乳爆尻美少女が、全身を桜色から朱色に変えながらうつむいた。
「良人くんがいたら、わたし立てないじゃないですかぁ。向こうの、わたしの部屋で待っていてもらえますか?」
よくよく考えれば、普通は月見里が目を覚ました時点で逃げるべきだったろう。
なのに俺は、長々と月見里のスベテをじっくりがっつりまじまじと観賞し続けていた。
「すいませんでしたぁああああ!」
俺はリビングから撤退。
ドアを開けて、別室へと転がり込んだ。
そこはベッドと学習机、本棚と衣装ケースのある、プレイベートルームだ。
「…………」
備え付けのティッシュで鼻血を拭いて、部屋の雰囲気に俺は息を吞んだ。
月見里の部屋なら、四歳の時から通っている。でも、その時はまったく感じなかった香りが部屋に満ちていた。
花やハーブとは違う。
これは、月見里自身の匂いだ。
女の子の匂いを、よく『甘い匂い』って言うけど、それも違う。
無理矢理例えるなら確かに甘い匂いかもしれない。
けど一番しっくりくるのは単純明快『いい匂い』だ。例えるものがない、この世で一つだけの、月見里心愛の匂いだった。
なんだか胸が熱くなってくる。
いや、スケベな意味じゃなくって、さっきとは違う、もっとこう、愛着的な意味で。
俺、この匂い好きだな……。
「………………」
俺は少し冷静になって、あらためて思い返す。
月見里って、月海だったんだよな?
月海心愛。俺の、幼馴染の女の子だ。
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