第13話 妹
「ほい、ロールキャベツにオムレツできたぞ」
家に帰った俺は、小学生の妹と、SGT隊長で社会人の姉の為にお昼ご飯を作ってあげる。食卓テーブルの上に配膳すると、二人分の足音が聞こえる。
「わーい、お兄ちゃんのオムレツだぁー♪」
両手をあげたまま、ぱたぱたと走って来る妹の幼。続いて、黒スーツから楽な部屋着に着替えた若姉ちゃんが顔を見せる。
「あら美味しいそうじゃない。いつも悪いわね弟ちゃん」
「姉ちゃんはお勤め人だろ? 土日に作ってくれるだけ凄いよ、さてと」
「さてと♪」
俺が着席すると、幼が俺の膝の上に着席した。
俺は無言で幼を抱きかかえて、右手の席に座らせる。
「ぶー、お兄ちゃんけちー」
「いや、お前最初から俺にだっこしてもらうのが目的だろ」
幼の童顔が、生意気に口元を歪めて視線を逸らす。
「ちっ、バレたか」
「バレるっつうの」
やれやれ、と俺は自分の席に座ろうとして、そこには姉ちゃんが座っていた。
姉ちゃんは期待の眼差しを俺に向けて、自分のふとももを手で軽く叩く。
「…………」
俺は無言のままに、さっきまで姉ちゃんが座っていた席に座った。
「あー弟ちゃん酷い!」
半泣きになる社会人(一八歳)へ、俺は鋭くツッコミを入れる。
「うるせぇな。弟が傷心中なのをいいことに毎晩添い寝してきたくせに、二人用の枕持参で! もう弟成分は摂取できただろ!?」
「違うわよ! 別にSGTに入るのやっぱりヤダって言いたかったけど空気を読んで言えず、落ち込み心が弱っているのに付け込んで入学式の日まで毎晩弟ちゃんを抱き枕にしたとかそんな事はぜーんぜんないんだから!」
「今年最低の自白をありがとうだよ馬鹿野郎!」
途端に、姉ちゃんはわざとらしく『よよよ』と泣き崩れる。
「酷いわ。お姉ちゃん今度の職場こそいい男がいると思って期待したら同年代の男のセカンド全員に仕事用アドレスを渡されて傷心中なのに……ぐすん」
「姉ちゃん今度は何したんだよ?」
姉ちゃんの顔から涙が消え去り、ひだまりのような笑顔になる。
「あのねぇ、聞いて聞いてぇ弟ちゃーん♪ 教員のランクを決める時に隊長だからナメられちゃ駄目だと思ってお姉ちゃんVS他全員でやったら勝っちゃったのよ♪ お姉ちゃん凄いでしょう?」
俺は悲しくなって、目がしらが熱くなってきた。
姉ちゃんは身振り手振りをつけながら興奮。
「流石はあたしの上の第一世代。一九歳のセカンド達は強かったわ。でもお姉ちゃんは怯まずいくつもの超能力をブチ込まれながらも逃げず、退かず、媚びず、顧みずに果敢に立ち向かったわ! そうして次から次へと襲い掛かる敵を千切っては投げ、千切っては投げ」
鼻息を荒くして、姉ちゃんは腰に手を当て豊かな胸を張る。
「最後は指揮統制力を除いた純粋な戦闘力なら、隊長であるあたし以上と評判だった超戦闘派の奴との一騎打ち。でもお姉ちゃんは戦闘序盤からそいつを消耗させるべく、乱戦に巻き込んだり力を無駄打ちさせていたの。それでも勝負は互角。だからお姉ちゃんは最後の賭けに出た」
姉ちゃんの語りは、ついにジェスチャー付きへと発展。銃の形にした右手の銃口に、左腕を重ねる。
「お姉ちゃんは左腕だけ意識的に防護力を消して、左腕で右手を隠しながら左腕越しのヘッドショットを成功させてやったわ!」
俺は悲しくなって目から涙が溢れる。
最後まで語った姉ちゃんは、満足して椅子にお尻を下ろし、背もたれに体重を預けた。
「まぁお姉ちゃんも腕一本犠牲にしての勝利だったけど、千切れかかった腕は仲間のセカンドが綺麗に治してくれるから問題ないわ。昨日一緒にお風呂入ったけど、傷跡無かったでしょ?」
俺は姉ちゃんのカラダを思い出して、邪念を押さえながら涙を腕でぬぐう。
「今日も一緒に入ろうね、弟ちゃん❤」
「幼もはいるー♪」
上機嫌に誘って来る姉ちゃんに、俺は月見里の事を思い出しながら頷いた。
「それはいいけどさ、ちょっと姉ちゃんに月見里の制服の事で相談があるんだよ」
「月見里さんの制服がどうしたの?」
「ほら、あいつ」
俺は一瞬、妹の幼に視線を向けた。こいつのブラコン過ぎる性格を考慮して、俺は月見里が女子である事をボカす。
「あいつ体格が立派すぎて、特に胸の厚みが尋常じゃないだろ? 制服がキツくて仕方ないんだよ。今日なんて胸のボタンが弾け跳んだぜ」
「……へぇー、確かに月見里君の体格なら仕方ないわね」
君付け。姉ちゃんは俺の意図を察してくれたらしい。
幼い幼は、頭上にはてなマークを浮かべる。
「その人そんなにおっきいの?」
「え!? お、おう凄い大きいぞ、もう滅茶苦茶デカイんだ!」
胸がな。
「だからさ姉ちゃん、月見里の奴、LLでも小さいから、あいつに特注の制服を用意してやってくれないか? 貴重なセカンドの戦力だろ?」
「う~ん、そうねぇ。確かにそれぐらいなら問題ないわ。いいわ、あたしが申請して、月見里君の制服を追加支給してあげる」
「ありがとう姉ちゃん」
流石姉ちゃん、話が解る。
これで月見里をぬかよろこびさせずに済む、と俺は安心した。
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