第12話 アイドル歌手から爆乳美少女にペア交換
天罰覿面と思いきや、顔を上げるとご褒美が待っていた。
「あっ、すいません良人くん。LLサイズを頼んだんですけど……」
心愛は申し訳なさそうに眉尻を落として、恥じらう様に頬を桜色に染めた。
ボタンを失った胸元を、可憐な手で隠すことも忘れない。
その表情と仕草がこう、俺の心にグッと来て、俺は必死に月見里をフォローした。
「月見里は悪くないよ! これはあくまで事故なんだから! むしろ制服の種類が少ない国が悪いんだ! そうだ、国が悪いんだ!」
俺は自信たっぷりに言い切った。
でも実際、よく見ると心愛の制服はおデブさん用と言うか、胸はハチ切れてしまう程キツいのに、お腹や腕は布が余ってぶかぶかだ。
女の子に男性用ワイシャツを着せるぐらい無理が、いや、ある意味魅力的だけど。
「ほら、袖も長過ぎて、手の甲が隠れているじゃないか。やっぱりこの制服は月見里に合っていないんだよ。国のせいで胸のボタンが飛んだんだ。悪いのは制服と国だ!」
ありがとう日本政府!
「けど……」
月見里は納得できないようすで、ちょっとボタンが当たった程度の事を深く気にしている様子だった。
でも次の瞬間、月見里の顔が明るく華やいだ。
「あ、じゃあ良人くん。今日の午後から、わたしの部屋で作戦会議をしませんか?」
『わたしの部屋』という響きに、心臓が大きく高鳴った。
背中にじんわりと汗をかきながら、俺は尋ねる。
「わ、わたしのって?」
「はい、わたし県外から来たので、この学園の女子寮を借りているんです。元々、今日は二人でペアバトルの作戦会議をしようと思って、場所をどこにするか良人くんと相談したかったんです。でも、わたしの部屋でおもてなしさせてもらえますか?」
俺は心臓を射抜かれた。
どんだけいい子なんだよ。これが不知火なら絶対絶対絶対焼き殺されているぞ俺。
月見里のやさしさに感動してしまう。
この子に何か恩返しがしたい、そう思って俺は舌を回した。
「じゃあ俺が姉ちゃんに制服のことを相談するよ、なんてたって月見里はセカンドで貴重な人材なんだから、制服の特注ぐらいしてくれたっていいだろ? そうだろ?」
「そうですかぁ。とてもうれしいですぅ」
月見里らしい、ちょっと間延びしたおっとり声とは逆に、俺はどんどんテンションが上がって行く。
まさか入学初日から女子の部屋にお呼ばれするだなんて、俺にもようやく運がむいてきたか? 女子の家に行くなんて小学生の時以来だな。
「良人くん、ありがとうございますぅ」
月見里は両手を膝の上に重ねて、軽く頭を下げて会釈をする。
「おぐぁっ!」
俺の両目が限界まで開いて固まった。
月見里の両手が胸から離れた事で、ボタンの飛んだ制服はぽっかり開いてしまう。
その隙間から、白くてきめ細かい肌と、刺繍の施された純白の布地が見えている。
「ぁ…………」
気付いた心愛はすぐに胸元を両手で隠して、そのままうつむいてしまう。
表情は分からないけど、ポニーテールの下で両耳が真っ赤に染まっている。
心愛は俺に背を向けてから、椅子から立ち上がる。
肩越しに、まだ赤身の残る温和な表情を見せてくれる。
「じゃあ良人くん、お昼ごはんを食べ終わったら、女子寮の三〇四号室に来て下さいね」
「お、おうっ」
女子寮。その単語を聞いただけで、なんだか背徳的な感情が湧きあがるのは、俺が最低の下衆野郎だからだろう。
妹と姉ちゃんで慣れているせいか、女子に対して変な抵抗は無い。けど、やっぱり初対面の女の子の部屋に行くっていうのは色々期待しちゃうのが男というものだ。
「そうです良人くん、お茶菓子が足りなかったら買い出しに行くかもしれませんからぁ」
心愛は不意にポケットから財布を取り出すと、同じ色のカードを二枚取り出した。
そのうちの一枚を机に置いて、俺に差し出した。
「これ、合いカギを渡しておきますね。もしもわたしがいなかったら、部屋で待っていてくださぁい」
は? この子何言っているの? 普通初対面の男子に部屋の合いカギ渡すか?
俺は興奮を通り越して、なんだか心配になってきた。
もしかして月見里って、八月朔日以上の箱入り娘なんじゃ。
それで、世間知らずのお嬢様で人を疑う事を知らなくって、言っちゃ悪いけど頭の中がお花畑なんじゃ……
俺の中で心配が膨らむ。
今までは義務教育の中学生で、ある意味まだ子供だったからいい。でも、もう月見里は大人に近くなっていて、ましてこの容姿だ。
俺の目は、さっきとは違う意味で月見里の胸元と顔を確認する。
醜い男の毒牙にかけられる月見里を想像して、俺の中で心配が使命感に変換された。
この子は、俺が守らねば!
「良人くん。どうして手をグーにしているんですか?」
月見里は、平和そうな顔で小首を傾げる。
俺は冷静な感情で答える。
「いや、何でも無いよ。それよりペアバトル頑張ろうぜ。せっかくセカンドになってSGTに入ったんだ。どうせなら上に行こうぜ」
「はぁい」
月見里はにっこりとほほ笑んでから、ゆっくりとした足取りで教室から出て行った。
「やれやれ」
作戦会議では合いカギの重要性を教えた上で、これは返すべきかもしれないと思いながら、俺は女子寮のカードキーを胸ポケットにしまった。
「ん?」
ポケットの入口に指が触れた時、俺は硬い感触に気付いた。ソレを指先でつまんで確かめると……
「これは……月見里の、胸のボタン?」
どれほど天文学的数字分の一の確率だろう。
まさかのまさか、俺の顔面を直撃したボタンは、そのまま俺の胸ポケットにシュートされていたらしい。
「このボタンもちゃんと返さ……」
俺は最後まで言いきらず、そのボタンをポケットの最深部に保管した。
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