第11話 ペア相手交換
俺は目が点になった。ペア相手交換って……姉ちゃんそれ国の決定じゃ。
「子府がペアの希望出して来たけど、現場の裁量で変えていいって言われているし。じゃあ不知火さんと八月朔日さん、弟ちゃんと月見里さんね」
言いながら、姉ちゃんは教卓の紙にボールペンで何かを書きこみ始めた。
そして俺の主人公ロードはまた消えた。
人気歌手不知火優華との恋愛フラグもへし折れた。
代わりのペアであるポニテ女子は不知火同様、すっごく可愛い美少女だけど、メディアでは一度も見た事が無い。
俺みたいに、一般人のセカンドをスカウトしてきたんだと思う。
たぶん、ペアバトルで好成績は残せないだろう。
やっぱり俺はこの学園で、劣等生として灰色の青春を這いずるんだ。
そう思うと、いつもの口癖が心の中に出てしまう。
世界は不平等だ。
◆
始業日は午前中に終わる。
放課後、みんなが席を立って帰る中、月見里は不知火の席に座ってくる。おっとりとしたやわらかい声で、俺に自己紹介を始めた。
「月見里心愛です。よろしくおねがいしますね、良人くん」
いきなり名前呼び? それに、なんだか嬉しそうだな。
「あ、ああ、よろしく」
あらためて見ると、月見里は本当に可愛かった。
抜いた痕のない眉は左右共に形が綺麗に整っているし、優しい印象を受ける垂れ目は長いまつ毛に縁取られ、瞳が吸いこまれそうな程大きくて親しみやすい魅力がある。
ひとたび彼女に見つめられたら、その瞳から視線を外せなくなってしまう。
小さくて可愛らしい口は、上品さではなく、本当にひたすら愛らしく感じた。
温かみのある魅力に溢れた愛顔、その魅力を完成させているのは、月見里の髪だ。
「私の能力は放出系の水属性なんですよぉ。良人くんは、えーっと、ほのおでしたよね?」
「う、うん、実際は少し違うんだけど」
日本人女性における理想美と言われる青みがかった黒髪、濡れ羽色。
時々小説には『常に濡れているように艶やかな髪』という表現があるけど、この艶が最高に達した時、この理想美は発現する。
主に古い小説や詩で使われる言葉で、現実には女優やアイドルでさえこの髪を持つ人は皆無だ。
この髪は青い色素ではなく、度を越した艶による光沢に近い。故に、その色合いは光の当たる方向や加減で魅力的に千変万化する。
「? 良人くんの能力は放出系の炎属性じゃないんですか?」
今も、月見里が不思議そうに小首を傾げるだけでやわらかい髪が揺れて、青い光沢が髪の上で揺れ動く。
ボリューム溢れる髪はポニーテールにして大きく広がって、彼女の白くほっそりとした首にマッチする背景のようだ。
「ああ、実際は儀式系で、特定の条件を満たすと相手の能力をコピーできるんだよ。コピー条件は口外禁止なんだけどな」
「わぁ、すごいんですねぇ」
「いやいや全然、威力は俺の実力に依存するから、ただの劣化コピーなんだよ」
両手を合わせて、大きな目を輝かせる月見里。俺は謙遜、いや、事実を言いながらも彼女の魅力に顔が熱くなってくる。
これだけでも俺の脳味噌は熱を持って反応がにぶくなるのに、次の瞬間、俺はとうとう情報処理能力を超える事態に遭遇してしまう。
「~~~~ッッッ!?」
入学式の日から知ってはいたから、ずっと見ないようにしていた。
でも、月見里の尊敬に輝く眼差しに照れて、俺は視線を落としてしまった。
守ってあげたくなるような華奢な首筋……よりも下、浮き出た鎖骨……よりも下……パンフレットで見た女子用の制服を、ハチ切れんばかりにイジメ抜くバストサイズに、俺は汗を握りしめた。
まさか、女の子の胸から『迫力』を感じる日が来るとは思わなかった。
一言で言うと、デカイ。
オブラートに言うと、すごく女性的で母性的なバストだった。
女子を胸で判断するなんて最低だし、下品だと思うのに、息を吞んだまま視線を動かせないのは、男子の悲しい本能だった。
この状況で理性なんて意味を成さない。後は罪悪感が本能を凌駕するまで、俺は月見里の爆乳を爆視し続けるだろう。
胸なら、俺の姉ちゃんだって巨乳だし、入学検査の日に会った音威子府さんも魅惑的過ぎる胸の持ち主だった。
けど月見里の胸は、音威さんと比較してもなお、ステージが一つ違った。
ぱんっ
世界一ラッキーな福音と同時に、弾け跳んだ制服のボタンが俺の眉間を直撃した。
「痛っ!」
天罰覿面と思いきや、顔を上げるとご褒美が待っていた。
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