第10話 入学式


『続いて、高等部、入場』


 場内アナウンスと共に、俺ら高等部生は入場口からアリーナに入場。

 途端に湧き上がる歓声。

 列に並んで、規則正しく前進しながらも、その光景に圧倒されてしまう。


「すげぇ……」


 チープな感嘆の言葉しか出てこない。


 会場を埋め尽くす人々や警官隊に、マスコミのカメラ。


 VIP席にはSP付きの人達、というか控室で説明されたけど、政治家の人達が座っている。

 姉さんから説明は受けたけど、日本政府は俺らSGTを本気で大々的に世間へ売り込むようだ。


 それから総理大臣を含めた各大臣達の挨拶。

 一〇人ずつ壇上の上に呼ばれて、入学証書を授与。

 それから高等部の全員で並び直して記念撮影。


 この時、最前列は不知火や八月朔日とか、元から顔の売れている人や画面映えのする人で固められた。


 なのにどういうわけか俺も最前列で、しかも真ん中に近い場所だ。


 ど真ん中に立つ不知火と、そのすぐ横に立つ八月朔日さんとは二人しか隔てていな

い。

 いくつものカメラレンズと、大人達の目が俺に、いや、俺達最前列の生徒に集まる。

 常にフラッシュとシャッター音の集中砲火を受けながら、スタジアムの巨大スクリーンには俺ら最前列の生徒の顔が、なめるようにドアップで映し出される。


 緊張、恥ずかしい、場違いではないのか、という疑問。


 不知火みたいな凄い超能力者なら、ここで俺も胸を張れるけど、いかんせん劣化コピーの雑魚キャラ超能力者じゃあ気後れしてしまう。


 なのにマスコミは俺らに、


「笑って笑って」

「目線、こっちにも下さい」

「いいよ、すごくいいよ。これぞセカンド、新世代のニューヒーローだ」

「おい、最前列の生徒は全員押さえておけよ」


 なんて言っている。

 あー、俺ってきっと、今が人生のピークなんだろうなぁ……

 俺はこれから待っているであろう、灰色の青春に思いを馳せる。

 作り笑いをしながら、心の中で大きく溜息を吐いた。

 そして、大臣の一人がマイクを手に宣言する。


「また、近いうちに生徒同士のペアバトルを行い。その審査次第では即Dランクへの昇格となります。皆様、結果を楽しみにお待ち下さい」


 D……ランク?


   ◆


「入学要綱で知っていると思うけど、貴方達にはEからSまでの六段階評価が与えられます」


 入学式の二日後、始業日。


 俺は教室で、担任である姉ちゃんから朝のホームルームを受けていた。


 一クラスあたりの人数はおおよそ二〇人と少数。


 それが各学年ごとに四クラスあるらしい。


 一年一組の教室には不知火優華や、八月朔日真理亜、それに、あの眠そうにしていた青髪ポニテの女の子もいた。

 しかも……


「なんであんたが隣なのよっ」

「しょうがないだろ? 席順は決まっているんだから」


 不知火の席は、窓際に座る俺の右隣だった。

 朝、学校に来るとそれぞれの席に名札が貼ってあったので、俺の意志では無い。

 ちなみに八月朔日は、あの眠そうな女子と隣り合って座っていた。


「はいそこ集中っ」


 姉ちゃんが両手を叩いて、俺と不知火を注意した。


「じゃあ説明に戻るわね」


 姉ちゃんは教師口調で俺らを見回す。


「現在、全校生徒はまだ全員Eランクで、SGTの候補生で予備隊員。それからDランクに昇格すると任務で呼ばれるようになり、Cランク以上になると正式隊員として重要な任務を任されるようになるわ、け、ど」


 姉ちゃんは右手人差し指を立てて、みんなの注目を集める。


「初等部や中等部と違って、高等部生であるみんなには、全員年内にCランクを目指してもらうわ」


 クラスは意気込む生徒と、不安がる生徒に分かれる。


 年内にCランクか。


 難易度はよく分からないけど、俺にはハードルが高そうだな。


 クラスの顔ぶれを見れば、それなりにメディアで見覚えがある。俺と違って、実力派セカンドであるみんなは心配ないだろう。


 あー、世界は不平等だ。


「というわけで、優秀な子には早速Dランクになってもらうわ。入学式で聞いたと思うけど、近いうち、正確には一週間後にペアバトルをするわ。個人戦じゃないのは仲間との連携ができるかも見るからよ。戦いの内容を国のお偉いさん達が評価して、優秀者は見事Dランクに昇格。お給料もアップだから頑張りなさい」


 ペアバトルか……相手が俺の火炎能力と相性のいい奴なら勝ちもあるか。


 相性に関係無く、運よく凄く強い奴とペアを組んでも、勝機はある。


 俺は密かに神様へ祈った。


「ちなみにペア相手はこっちでもう決めてあるわ。席が隣の人、それが貴方達のペアよ」


 姉ちゃんがウィンクをすると、俺と不知火の声がダブる。


「「え?」」


 息をのみながら、俺は姿勢を正した。


 ていう事は、俺のペアは不知火優華って事か?


 歌手としての人気だけじゃなくて、火炎使いとしても超一流の実力を持つ、おそらくはDランク昇格最有力候補。


 それだけじゃない。俺の中で、不知火との恋愛フラグが立った気がする。


 最初はいがみあっていた二人がひょんなことからチームを組む事になり、一緒に艱難辛苦を乗り越える中で恋に落ちるって言うのは、バトル漫画やラノベの基本だよな?


 でも俺が好きなのはあくまで八月朔日。二股なんて最低だぞ新妻良人。


 とか自分に言い聞かせても、また黄金の主人公ロードが輝きを取り戻す。


 俺様TUEE系じゃなくて、冴えない努力型主人公としてバラ色の青春を送る未来が、うっすらと見えて来た。


「冗談じゃないわよ!」


 不知火は席から立ち上がって、俺を指差す。


「なんであたしがこんな奴と組まなきゃなんないのよ! っですかぁ!」


 おー、怒り過ぎて敬語が崩れた。


「う~ん、音威子府達は炎使い同士が組んだらどうなるのかデータを取りたいらしいのよ」


 諦めろ不知火。国の決定がお前のわがままで変わるわけがないだろ。


「けど納得できませんっ」


 不知火は両眉を吊り上げて、なおも姉ちゃんに喰い下がる。


「このあたしと組む以上、ふさわしい相手でないと納得できません! そうね、例えば」


 きょろきょろと視線を彷徨わせて、不知火の目はとあるペアに止まった。


 眠そうなポニテ女子が、穏やかな笑顔で八月朔日の手を握っている。


 八月朔日はそっけなくも、まんざらでもなさそうな顔で彼女と握手を交わしている。

 あれ? 八月朔日が他人を受け入れるなんて珍しいな。


「そう、こいつとか!」


 不知火の指は、まっすぐ八月朔日を差した。


「私ですの?」

「前にニュースで見たわ。あんた、自分のところの会社に忍びこんだ強盗を電撃一発で全滅させたそうじゃない。あんたとなら、組んでやってもいいわ」


 強気な不知火に、八月朔日は冷たい視線を返すが、口は違った。


「まぁワタクシも、貴方ほどの相手なら足を引っ張られずに済みそうですが、ワタクシはもう月見里さんというパートナーがいましてよ」

「じゃあそいつと新妻が組めばいいでしょ!」


 どんだけ俺の事嫌いなんだよお前は。まぁこのくらいのわがままなら、まだ自分に正直なだけって長所に思えるからいいけど。


 俺は歌手時代から、不知火のこういう一面が割と好きだったりする。


 他人のご機嫌ばかりうかがったり、愛想を振りまいて人気取りに走る人よりも、俺は好感が持てた。


「そうねぇ、じゃあ不知火さんがそこまで言うならペア相手交換しましょうか」

 

……………………え?

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