第6話 ヒロインの能力

 俺のSGT入隊が決定して、俺、不知火、音威さん、姉ちゃんの四人は別室へ移動。

 『能力検査室』と札のかかったドアをくぐると、学校の体育館よりも広い部屋に出た。

 中にはSF映画で見るような、いろいろな実験機器や装置らしきものが置いてあって、男子の心をくすぐってくる。


「優華さんがいて助かりますよ若先輩。コピー元がいれば、良人君の能力が解り易い」


 音威さんの言葉に、不知火が手を叩く。


「あー、そういえばあんたぶつかった相手の能力をコピーできるんだっけ?」

「いや、キスした相手の――」


 言い切る前に、不知火が冷たい笑顔で迫って来た。


「衝突した相手の能力をコピーするのよね?」

「ハイ! その通りであります!」


 圧力に屈して、俺は軍人のように敬礼をする。


「じゃあ不知火さん、この箱に入ってくれる?」

「はい分かりました♪」


 音威さんの指示に、不知火は営業スマイルで張り切り始めた。


 まぁ偉人伝入りしたいとか、目立つの好きそうだし、ここは腕の見せ所だろう。


 不知火は白いプレハブ小屋みたいなデカイ箱に入ると、内側からドアを閉める。


 プレハブ小屋に窓は無いけど、音威さんが操るコンソールデスクの画面には、小屋の中の映像が映っている。


 小屋の中には台があって、その上には、数本の金属棒を入れた容器が置いてある。


「炭素製容器の中に融点が六六〇度のアルミ、一〇八三度の銅、一五三九度の鉄の塊などをいれています。温度センサーはついているけど、まぁこっちのが解りやすいでしょう」


 機械的に淡々と説明する音威さんが、マイク向かって喋る。


「不知火さん、じゃあ思い切り炎を出してくれる?」

『はいっ。よっし、はぁあああああああっ、おりゃあああああああああああ!』


 不知火の全身が、一瞬で赤い炎に包まれる。

 炎は一瞬で爆発的に膨れ上がって、部屋中を満たした。


「どう子府?」


 音威さんと一緒に、姉さんが画面を覗き込む。


 小屋の中の映像の横に、室内温度が表示されている。


 その温度はみるみる上がっていった。


 映像の中で、アルミと銅の塊が溶ける。続いて鉄が、そして銀色の金属棒が溶けていく。


 トップ歌手不知火優華は、その超能力の実力も芸能界ではトップクラスだったけど、まさかここまで凄いなんて驚きだ。


 音威さんが、声で口笛の音をまねる。


「ひゅー、すごいねぇ。室内温度二〇〇〇度。融点が一九〇〇度のクロムまで溶けたのがその証拠か……でも」


 またマイクへ口を近づける。


「不知火さん、最後の金属棒、溶かせる?」

『任せて下さい! おりゃあああああああああ!』


 不知火は、最後の金属棒に向かって両手を突き出すと、直接炎を噴射した。


 直接熱された金属は今にも溶けそうな印象を受けたけど、いつまで待っても変わらない。


「……う~ん、流石に融点三三八二度のタングステン。地球上でもっとも熱に強い金属は溶かせないか」


 室温計には、二二〇〇度と表示されている。

 俺は思い出す。前にバラエティ番組のゲストとして不知火が出た時、番組が用意した物を一瞬で焼き尽くして拍手をもらっていた事を。


 最高温度二二〇〇度って、消防士の耐火スーツも一瞬で燃え尽きるな。

 不知火の凄さをあらためて認識させられる。

 けど、俺だってもうセカンド。今までの俺じゃない。


「OK。不知火さん、実験は終了だよ」


 カメラの向こうで、不知火は悔しそうに歯を食いしばり、肩を震わせていた。

 いや、地球最強金属なんだからそこはいいだろ別に。

 不知火って負けず嫌いだなぁ……。

 不知火の凄さと性格、両方に呆れる俺だった。


「じゃあ次は良人君の番だね」


 不知火が小屋から出てこっちへ戻るまでの間、音威さんは俺に説明をしてくれる。


「良人君は、セカンドの超能力が六大系統に分かれているのは知っているかい?」

「はい、それはもちろん」


 音威さんの言う様に、姉ちゃん達セカンドの、いや、俺らセカンドの超能力は六つの系統に分かれている。


 放出系:炎とか水とか特定の属性物を放つ。

 操作系:周囲に存在する特定の属性物を操る。

 召喚系:特定のモンスターを召喚する。

 獣化系:自身が特定のモンスターになる。

 儀式系:特定の条件を満たす事で特定の効果を得る。

 特殊系:他五つのいずれにも属さない、文字通り特殊な能力。


「良人君のは儀式系。キスをするという条件を満たす事で、キスをした相手の超能力をコピーするという能力だよ。儀式系は検査が難しいけれど、君は別だ。コピーした不知火さんと同じ放出系の検査を受けてくれ。じゃあ一緒に行こうか」

「はい!」


 俺は音威さんに連れられて小屋へ行く途中、ちょうど戻って来た不知火とすれ違う。


「あんたラッキーよね」

「え?」

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