第4話 最強能力
「あたしはファンの恋人でもアイドルでもない! 歌って人を魅了する――」
ウィンクをしながら右手人差し指を、びしっと俺の顔に突きつける。
「アーティストなんだからね♪」
怒っていたかと思えば、今度は弾けるような笑顔。
流石はトップアイドル、いや、トップ歌手。
一時の感情に流されてとはいえ、俺を焼き殺そうとした人なのに、俺はもう不知火の笑顔に魅了されていた。こんな可愛い子とキスをしたなんて、もう一生分の運を使い果たしたかもしれない。でも、後悔はないと言い切れる。
「しかも勝手に水着の写真集出そうとしたり、まったく……その点、SGTなら♪」
不知火の上機嫌な瞳が、姉ちゃんに視線を投げる。
「ええ、国のやる事ですもの。水着姿や恋愛禁止を強要なんてしないわ。治安維持の為の任務が優先だから、無理なスケジュールも組まない。プライベートな時間は保証するわよ。しかも、優華ちゃんが活躍したらバッチリ報道させてもらうし、約束通り慰問イベントで歌は歌わせてあげるわ」
「OKOK♪ 見てなさいよあんた。あたしはSGTのトップに立ってセカンド史上初の偉人として日本の歴史に永久に名を刻むんだから! はーっはっはっはっー♪」
不知火は両手を腰に手を当てて、形のいい胸を張って高笑う。
その姿を見て、俺はぽつりと呟いた。
「不知火は偉いな」
不知火の顔が、途端に怪訝そうなものになる。
「ん、なんかひっかかる褒め方ね。どういう意味?」
「だって今、SGTに入っても歌は歌わせてもらうって、それファンの為だろ?」
「……あたしが歌うのが好きなだけかもしれないわよ?」
「だったら事務所変えて歌手を続けるだろ? なのにSGTに入るのは、英雄になりたいから。でもファンが悲しむから、歌は歌い続ける。俺はそういう意味だと思ったんだけど、違うのか?」
さっきも『ファンに悪い』とか『ファンのおかげ』とか言っていた不知火だ。俺は、不知火の行動はあくまでファンの為だと思っている。
不知火は珍獣でも見るような目で俺を見上げる。
「………………あんた、珍しい奴ね」
「そうかな? あと、まだちゃんと謝っていなかったけどさっきはごめんな」
不知火はキョトンとする。
「何が?」
「いや、だから不可抗力とはいえキスしちゃった事だよ」
不知火の目から光が消える。
「エ? ナンノコト? アタシシラナイ」
記憶を改ざんしとる!?
不知火はマリオネットみたいな動きで、ふらふらと音威さんの方に歩いて行く。
「ソレヨリ、ハヤク、ニュウガクケンサシマショウヨ」
「入学検査?」
俺の問いには、姉ちゃんが答えてくれる。
「そう言えばまだ言ってなかったわね。SGT隊員は全員セカンドで、当然みんな未成年になるでしょ? だから政府のほうでSGT隊員と隊員候補が通う学校を作る事にしたのよ。そのほうが何かと効率もいいし、周りからの余計な干渉もないでしょう?」
音威さんの赤い瞳が、俺を映す。
「良人君も入学を希望するなら、受けてもらうよ」
「俺が?」
そういえば脳の処理能力を超える事ばかりが起きて失念していたけど、俺って自覚症状がないだけでセカンドだったんだよな?
セカンドが超能力に覚醒するのは小学生期が多い。
けど自覚症状は、まったくない人から、細かい能力内容まで直感的に知る人まで幅広い。
俺がいつ目覚めたのかは知らないけど、どうやら俺は自覚症状がまったくないタイプらしい。
「…………」
俺がセカンド?
世界は不平等だ。
セカンドっていうだけで高く評価されるし。
セカンドとノーマルならセカンドが優遇されるし。
兄弟姉妹がセカンドだとノーマルは劣等生扱いを受ける。
『へぇ、新妻さんの家ってお姉ちゃんも妹さんもセカンドなのねぇ、それで、良人君は?』
何度聞いた言葉だろう。
その度に何度思っただろう。
なんで俺はセカンドじゃないんだ? って。
でも、けど、だけど、俺セカンドだったんじゃん!
感じたことの無い高揚感が胸に湧き上がる。
セカンド達を主人公にしたバトル漫画やアニメを見るたびに空想した。もしも自分がセカンドだったら、こういう能力で、この敵をこんな風に倒す。
俺は中二病ってわけじゃないけど、このご時世、中高生ならだいたいの奴がそんな妄想にふけるだろう。
ネットでも『最強能力議論スレ』とか『最強のセカンドを考えた奴の優勝』とかいうタイトルのスレッドが人気だ。
実は、俺も何度か書き込んだ事がある。
でも今や妄想じゃない。
まさか俺みたいな凡人の人生に、実は超能力者でした、なんていうスペシャルイベントが待っていたなんて。
しかもコピー能力!
コピー能力って言ったら、異能力バトルものでも定番の最強能力じゃないか!
俺はニヤけそうな口を手で隠して、悩むフリをした。
おいおいマジかよ。
コピー能力とかそんなのラスボスやチートキャラの能力じゃねぇか。
脳内では、強敵相手に無双しまくる自分の姿が次々湧き上がる。
ただの凡人からある日、力が覚醒して俺様TUEE系に、まるで漫画の主人公そのものじゃないか!
上がり続けるテンション。
何にかは分からないけど『勝った』と心の中で叫ぶ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます