第2話 異能力への目覚め

「結論から言うと、彼はセカンドですよ。系統は儀式系。能力はキスをした相手の能力をコピーする、って感じですねぇ」


 俺の左頬から右手を離して、白衣の少女がそう言った。

 メガネの奥で光る赤い瞳に白い髪、クールな表情がミステリアスな魅力をかもしだす、かなりの美少女だ。

 おまけに、白衣の下に着たタートルネックを大きく押し上げる胸は、どう見ても爆乳と呼ぶにしかるべきシロモノだ。


 どういうわけだか、俺は今、国のとある機関の検査室にいた。


 しかも、俺の姉ちゃんと一緒に。


 白衣少女の隣で、俺の二つ上の姉、年齢=彼氏いない歴の新妻若が嬉しそうに跳びはねた。


 日本でも飛び級制度が採用されて、うちの姉ちゃんは一六歳で大学を卒業。


 以来、公務員になったとは聞いているけど、仕事内容は教えてもらっていない。一体姉ちゃんの仕事ってなんなんだろう?


「ヤター♪ 良かったわね弟ちゃん。そうかそうか、やっぱり弟ちゃんもセカンドだったかぁ。うんうん」


 ミニスカ黒スーツでびしっとキメたスタイルながら、大人びた顔を満面の笑みにして子供っぽく喜ぶ姉ちゃん。


 弟のひいき目を抜いても、こっちはこっちで相当な美少女だ。

 長い黒髪も、切れ長の目も、筋の通った鼻も、全てが芸能人顔負けのクオリティだ。スタイルだって、高い身長に巨乳とセクシーなヒップラインで、プロモデルも形なしだ。

 これでデートコースに射撃場やガンショップを選ばなければ数々のチャンスをふいにする事もなかったろうに。


 姉さんの恋はいつだって。

 ①ナンパされる→OKする→じゃあデートしましょう。いきつけの射撃場に→破局。

 ②合コンの自己紹介で→趣味は爆弾と銃火器です→全員から無視。

 の二パターンだ。


 その姉ちゃんが、興奮しながら俺に跳びかかる。


「じゃあ弟ちゃんキスしよキス! お姉ちゃんの能力受け取ってぇ!」

「やめれっての!」


 俺は姉ちゃんを近寄らせまいと、両手を勢いよく突き出す。俺の両手から火炎放射器のような勢いで炎が噴き出し、姉さんを包み込む。


「ぎゃああああああああああ!」

「おっと」


 俺が炎を止めると、仰向けに倒れた姉さんが起き上がる。


「あーびっくりした。まったく、防護力を持っているセカンドじゃなかったら死んでいたわよ弟ちゃん」

「ご、ごめん」


 姉ちゃんは人が変わったように、大人びた口調で俺をたしなめる。


 セカンドには、自己防衛機能として、超能力を含めたあらゆる攻撃から身を守るバリアーのようなものを持っているらしい。


 姉ちゃんが俺の炎で火傷一つ負っていないのも、その防護力のおかげだ。

 ただし、完全にシャットアウトするわけではなく、ケガをしない程度に弱めるだけ。

 今の姉ちゃんも、熱いお風呂に突き落とされたぐらいの痛みは感じたと思う。

 俺は少し反省した。


「それで子府(ねっぷ)、私が弟ちゃんにキスしたら能力が二つになるの? それとも上書き系?」


 さっきまでの姉ちゃんはどこへやら、大人の表情で白衣の女性に水を向ける。


「そうですねぇ、上書きはされません。コピーした能力は一生もの。ですがコピーできるスロットの数には限りがあって、現状はまだ一つだけですね」

「じゃあ私がキスしても」

「何も変わらないですね。これからの成長でスロットの数は増えます」

「あのう……」

「「ん?」」


 さっきから置いてけぼりの俺は、恐る恐る右手を上げた。


「あー、悪かったわね弟ちゃん。結論から言うとね、お姉ちゃんて今までSATの隊員だったのよ」

「SATって、特殊急襲部隊かよ!?」


 驚いて、思わず席から立ち上がってしまう。

 ネットサーフィンが趣味で、雑学マニアな俺は、警察最強の特殊部隊であるSATにもある程度精通している。


 SATの隊員は、自身の職業を家族にも秘密にせねばならないという決まりがある。姉ちゃんが仕事を秘密にしていたのも頷ける。


「でもどういう経緯でSATに入ったんだよ!?」

「まぁ色々とね。でも今は新組織、セカンド・ガーディアン・チーム、SGTの隊長よ」

「え、SGT?」


 眉根を寄せてから椅子に座り直す俺に、姉ちゃんは人差し指を立てて、先生っぽく解説を始めた。


「まぁ平たく言えば、対セカンド犯罪者用の特別チームってところかしら? 所属は警察であり軍隊であり、そのどちらでもない。とにかく超能力を悪用する悪いセカンド絡みの事件全般を受け持つスペシャルチームよ」


 確かに、日本ではセカンドが人気と言っても、中には調子に乗って、超能力を悪用する奴もいる。


 今でも一部の活動家や団体は、セカンドを犯罪者予備軍であるかのように主張している。


 二〇二〇年の新生児から始まったセカンドは、最高年齢でも一九歳なので、必然的に全てが少年犯罪になる為、教育者達も前々から騒いではいた。


「それで私や音威子府(おといねっぷ)みたいに、元から政府の為に働いているセカンドが中心になって、スカウトに走っている途中だったの。幸いセカンドは有名人だらけだったから、探すのは簡単だったわ」


 姉さんの説明に続く形で、白衣の少女が無感動に手を上げた。


「どうも、音威子府だ。君のお姉さんの若先輩とはそこそこの付き合いで、SGTでは能力研究をしている。能力は特殊系で、触れた相手の能力を知ることが出来る。もっとも、私は女子にしか触らないがね」


 言いながら、音威さんは白衣のポケットから棒付きキャンディを取り出して開封する。


「あの、俺男なんですけど?」

「君は可愛いから別枠だ。あむ」


 俺のコンプレックスを突いてから、音威さんはキャンディを口に含んだ。

 正直に言うと、俺は女顔だ。

 それこそ、昔から姉ちゃんや妹と一緒に歩けば三姉妹と勘違いされるほどに。


「まぁそれは置いといて、じゃあもしかして姉ちゃんが俺らを回収したのって」

「その通り、スカウトした優華ちゃんをこの、SGT本部に連れて行く途中だったのよ」


 俺は、ほんの一時間前の事を思い出す。

 

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