第41話 新たな旅立ち
二人はオルトハーゲンに乗り荷馬車を置いた丘の上まで戻ってきた。
丘の上から見たクロッフィルンは所々で家が燃えていて、闇夜の中でライトアップされているように見える。
二人はその光景をオルトハーゲンの上から眺めた。
リュオが前に股がり馬の手綱を握る。その後ろにイグが跨がっている。二人はぴったりと身を寄せていた。触れている所がお互いの体温で温かい。
リュオが顔を横に向けてイグの胸に頭を凭れる。イグは自然とその頭を撫でた。
恐ろしい光景を目の当たりしているのに、こうしていると不思議と不安ではなかった。
これよりクロッフィルンではテンウィル騎士団とエスニーエルト伯爵の軍が幾度か争うことになる。そして争いの末、勝利したテンウィル騎士団がクロッフィルンを実効支配していく。
テンウィル騎士団はブリトリーデン王国公認の騎士団でエスニーエルト伯爵はブリトリーデン王国の貴族だ。内乱といえばそれまでだが、そこには大きな歴史的意味がある。
なぜならテンウィル騎士団の後ろ楯がブリトリーデン王国でエスニーエルト伯爵の後ろ楯は嘗(かつ)てブリトリーデン王国に滅ぼされたこの地域の小国の王家だからだ。
今後、50年を掛けてアトラス大陸東部で繁栄していたチェステリー教会は勢力を衰退させていく。それに代わってプロスパー教会がこの大陸全土を支配していく。
それはブリトリーデン王国がこの大陸を完全に支配していくことを意味している。
50年後、150年続いたテンウィル騎士団はある事件を切っ掛けに解散することになる。解れた組織は陸軍や海軍の基盤になったり、教会に取り込まれたり、大商会や秘密結社になったりする。それはまた別のお話。
「ねぇ、イグ」
イグの胸に顔を押し当てていたリュオが呟いた。
「なんだ?」
「……クリスさんとしたんでしょ?」
「まぁ……な」
「……どうだった?」
「なっ」
イグの顔がドギマギしている。何と答えればいいのかわからないのだ。
「……いや、もう7年も前のことだし、あ、あまり覚えてないな」
「うそ」
「本当だ」
イグは今でも鮮明に覚えていた。
「……言いたくないこともあるよね」
「うっ」
嘘を看破されたイグは無精髭を撫でながら目を泳がせる。そして、話しを逸らさなければと浅知恵を働かせる。
「と、ところでお前、前世の記憶ってやつは思い出してるのか?」
「……うん」
「はは、どんなことを思い出してるんだ?」
「一番最初のアタシから、ずっと引き継がれている記憶」
「一番最初?」
「うん」
イグの胸に頭を預け力を抜いていたリュオは呟くように話し始める。
「……やっぱりアタシ、18歳になると死ぬんだ」
「そんな、なってみないとわからないだろ」
「アタシの霊魂には呪が掛けられているの。それはベルダンの術」
「……」
「 一道輪廻転生ノ呪 それがアタシに掛けられた呪」
ベルダン自身も己にこの術を施し何度も転生していたりする。それはまた別のお話である。
「まだ4年ある。ベルダンを探そう」
「うん。 ……ねぇ、イグ」
「ん?」
「もう一度、……キスしたい」
「ダメだ」
「えっ」
イグの胸から顔を離しリュオは彼を見る。
「さっきはしてくれたのに、なんで?」
「とにかくダメだ」
イグはリュオから視線を逸らした。
「じゃぁなんでさっきはしたの!?」
「俺は……、その……、お前のことを……」
そこまで喋ってイグは言葉を詰まらせた。そして片手で顔を覆い隠す。顔を見られるのが恥ずかしかった。
「……」
「さっき俺は、……お前を抱こうとした。一度してしまうと自分を押さえられなくなる。……お前がもう少し大きくなるまでは……、我慢しないと」
「ぷっ、ふふ。変なの。イグはアタシのこと、……好きなの?」
「うっ、……ああ、どうやらそのようだ」
その回答を聞いてリュオは一瞬驚いた表情を浮かべ、そして微笑みに変わる。
「じゃぁ許してあげる。……このロリコン」
「おまっ、それ言うなよ」
焦ったイグはリュオを見詰める。二人は見詰め合う。
「気にしてるの?」
「まぁな」
「ふっ、ふふふ」
「くっ、ははは」
二人は笑い合った。
翌朝、リュオの瞳の様な青空の下、二人は次の街に向けて荷馬車を進める。馬車を引く荷馬はオルトハーゲン。御車台からは楽しそうな笑い声が聞こえる。
二人の旅はまだまだ始まったばかりだ。
一章完結
◇ ◇ ◇ 後書き ◇ ◇ ◇
素人が書いた幼稚な小説ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字やおかしな表現が多いので時間がある時に修正したいと思っています(^_^;)
続編の構想はありますが、執筆するかはまだ決めていません。
最後に★で応援していただけると今後の励みになります。是非宜しくお願いしますm(_ _)m
行商人とほのぼの旅生活♪ 黒須 @kurosuXXX
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