第23話 唐突なラッキースケベ


「強い? こいつが?」


 東華が睨むような顔で俺に詰め寄る。迫力に負けて、というよりも、美少女の接近に耐えられなくて、俺は後ずさってしまう。


 繰り返して言うが、高一男子からすれば、女子なんて未知の生物だ。美少女ともなれば、もうユニコーンやグリフォンなど幻獣の域に達している。逢えたら興奮するけど、対処方法なんて想像もできない。


 それでも、壁際に追い詰められた俺はなんとか踏みとどまる。壁に背中をつけて、女子に壁ドン同然の状況だけはなけなしのプライドが許さなかった。周囲を見回しても光姫以外には誰もいない。俺にはいま、独力でこの場を切りぬけるひらめきが必要だった。


 俺はピズリーの、卓越した視力と動体視力で東華とその背後を観察する。そうやって東華から逃げるプランを組み立ていると、彼女の大きな瞳がニヤリと笑う。


 刹那、東華は跳んだ。彼女の腰が、俺の目線まで持ち上がる。飛び蹴りでもかます気だろうか? だがチャンス。いまならしゃがんで股抜きができる。そう考えるのと、東華が開脚するのは、ほぼ同時だった。


 東華のスカートのなかが俺の視界を独占し、俺は目を血走らせて硬直した。鼻の奥に激痛が走るなか、肉付きの良い、ムッチリとしたふとももが俺の顔面を挟みこみ、続けて俺の頭は一気に引きぬかれた。


 上下を失う浮遊感。鼻腔に広がり脳髄を満たす血液と東華の香り。視界をふさがれ何も見えないが、俺はしたたかに脳天を床に打ち付け火花が散った。


 ぷにぷにすべすべでツルツルの肌が、俺の口と鼻をふさいで息ができない。相変わらず何も見えないが、仰向けのままエビ反り状態で両足をロックされているのはわかる。


 常闇の世界で、東華の声がはずんだ。


「フフン♪ こんな大ぶりな技にも反応できないなんて、やっぱりあんた、大したことないんじゃない?」

「ちょ、ちょっとあんたソレ……」

「あー、あんた光姫だっけ? どう驚いた? これはウラカン・ラナのあたしバージョン、ゼブラ・ラナよ♪ フランケンシュタイナーのように相手の顔を股で挟んでからバック宙で相手を前に転がし、相手の脳天を床に叩きつけ仰向けに寝かせたらそのまま相手の足を両脇に挟んでフォール。良い子はマネしちゃダメよ……って、え? な、なんでそこにあたしのパンツが落ちているのよ……」


 東華の声が硬くなり、僅かに震える。鼻腔に広がる匂いも、羞恥心由来の甘酸っぱいものになる。


 酸欠の俺が息を吸おうとすると、俺の鼻と口を覆っている肌が熱を帯び、薄く汗をかきはじめた。いまにも窒息しそうだが、このまま死ねるなら本望だとも思った。


 と、そのとき俺の右足が解放され、視界が晴れた。具体的に言うと、俺の視界を覆っていたミニスカートの布地がめくられたのだ。



 爆乳の南半球、もといメロン大の下乳という絶景越しに、耳まで赤くした美少女と目があった。東華の目は大きくて、綺麗で、吸いこまれそうで、本当に魅力的だった。


 一方、ノーパンで男子に顔面騎乗しているという事実を知った東華は目を震わせ、首筋まで赤くし、額から汗を流し、半開きの口から可愛らしい声をもらしはじめた。

 そして東華は、漫画みたいな悲鳴をあげた。


「いやァああん‼ だめぇえええええ‼‼」


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