第22話 シマウマとライガー
最後に、雨流と森中が、
「おいそこのお前。テメェの顔は覚えた」
覚えないで。
「帝宮三姫はオレのオンナにする。逆らうと、タダじゃおかないからな」
なにこいつ中二病? バトル漫画の読み過ぎじゃないのか? ただ好きな子に告ったらその子は他に好きな子(俺)がいたってだけだよな?
「じゃあね姫ちゃん。大好きだよー」
「行くぞレオポン!」
「はいはい。ジャグリオンは乱暴だなぁ」
取り巻きの女子たちに続いて、ジャグリオン男子の雨流とレオポン男子の森中も俺たちに背を向けた。遠ざかっていく彼らを見送ると、今度はポニテ女子が人間に戻りながら、俺と三姫へ踵を返す。
「ちょっと雪人。あんた男のくせに情けないんじゃない? 男なら『俺の女に手を出すな』の一言くらい言えないの?」
ちょっと怒り顔で詰め寄るポニテ女子。美少女の思いがけない接近に、俺は戸惑う。
「え? なんで俺の名前知ってんだよ?」
ポニテ女子は両手を腰に当て、ジト目になる。
「あのねぇ、あたしたち、一応おなじクラスなんですけど?」
「そ、そうでしたっけ?」
昨日はクラス中の女子たちに囲まれて、いちいち誰がだれだか覚えていない。いや、それでもこれだけ目立つ子なら、覚えていそうなもんだが……
「まぁ、入学式にクラス全員の顔と名前覚えろなんて無理か。あたしの席うしろだったし、あたしあんたに話しかけていないし」
ポニテ女子は溜息をつくと、妙に納得した顔で頷いた。
「うん。そうよね、あたしからすれば雪人はクラス唯一の男子。でも雪人からすれば、あたしなんて三九人もいる女子のなかのひとりだもの。覚えられるわけがないわ。口もきいていないならなおさらだわ。今のはあたしが悪かったわ雪人。あんたがあたしを覚えていなくてもあんたは悪くないッ。ごめんなさいね」
頭は下げず、イイ笑顔で快活に謝られる。
なんだこの子。自分で怒って自分で解決して自分で謝ったぞ。
まぁ、素直なイイ子ではあるのかな?
いままで会ったことはないけど、竹を割ったような性格とはこういう子を差すのかもしれない。
ポニテ女子は、笑顔のまま自己紹介をする。
「あたしは二階堂(にかいどう)東華(とうか)、夢は帝和グループに入社して、プロの獣人レスラーになることよ。東華、またはゼブラガールって呼んでね♪ っで、それはそれとして」
ジト目再び。
「あんたこの子の彼氏でしょ? なに彼女に守らせてんのよ。情けないわねぇ」
「いや、別に俺、こいつの……」
彼氏じゃない。そう言おうとして、三姫の泣き顔を思い出す。外の世界に不慣れな三姫を置き去りにした罪悪感が、俺の口にチャックをかける。
「わ、悪いな……ごめん」
「謝るのはあたしにじゃなくて彼女さんにでしょ! バカじゃないの!」
そのとき、三姫が東華の肩をわしづかむ。
「ちょっとアンタ! さっきから黙って聞いてりゃ何よ好き勝手言って! アタシの彼氏バカにするのもいい加減にしなさい!」
「はぁ!? あたしはあんたの為に言ってやってんでしょ!」
「雪人の悪口言っていいのは彼女のアタシだけなの! それに雪人はすっごく強くて優しくてアタシのことすっごいすっごい大事にしてくれるんだから! アンタなんか雪人にかかったらワンパンよワンパン!」
意外な展開に、俺は目を離せない。
おお。てっきり東華も東華と一緒になって俺を責めると思ったのに。
朝から俺に文句ばかりのワガママ娘が、俺をかばって喧嘩している。その光景に、うっすらと感動すら覚えてしまう。
なんていうか、俺のことが好きだという三姫の告白が、じわじわと俺の胸に染みてくる。
「強い? こいつが?」
東華が睨むような顔で俺に詰め寄る。迫力に負けて、というよりも、美少女の接近に耐えられなくて、俺は後ずさってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます