第18話 ライオンとヒョウのハーフ、レオポン


 レオポンとジャグリオン。


 その素材に俺は息を吞んだ。


 アフリカにおける五大危険猛獣をビッグファイブと呼ぶ。ライオン、ヒョウ、ゾウ、サイ、バッファローがそれだ。レオポンはそのビッグファイブ同士、ライオンの攻撃力と、ヒョウの運動神経を持つ、超ド級の危険生物だ。


 そしてジャグリオンは、アメリカ大陸最大の肉食動物であり、中米では神として崇められるジャガー。もっともサーベルタイガーに近いと言われる、この猛獣が百獣の王ライオンとの間に作りだした交配種だ。


 トラとライオンの交配種である光姫のライガーが規格外なら、いま、俺の目の前にいるふたりも十分に規格外と言える。


 レオポン男子の森中が、王子様のように甘いマスクで光姫に誘いかける。


「三姫ちゃん。単刀直入に言おう。僕らは君のことが好きなんだ。僕らのどちらかと付き合ってくれないかな? もちろん、答えはすぐじゃなくてもいい。まずは友達としてはじめて、何度かデートを重ねてから決めてくれれば――」

「いや」


 光姫が俺の腕に抱きついた。子供っぽく出した舌が可愛い。


「あたしは雪人の彼女なの! 他の男なんてごめんだわ!」


 けんもほろろに切り捨てる光姫。その思い切りの良さには惹かれる一方、森中と雨流のふたりが可哀そうに見えてきた。


 告白の途中で断られるって、キツイなおい。


 取り巻きの女子たちは、眉を吊り上げて三姫を睨む。


 でも、森中は少しも気にする様子がない。想定内とばかりに目を細めて笑う。


「気の強い子は好きだよ。まぁ好みは人それぞれだけど、彼のどこがいいんだい?」


 俺は眉間にしわを寄らせた。


 好みは人それぞれって、俺じゃ三姫と釣り合わないって意味か?


 確かに俺は森中みたいなイケメンじゃないし、三姫と釣り合わないのは認めるけど、なんか他人に言われると腹が立つな。森中たちが女子を侍らせているせいか余計にムカつく。


 ていうか女子の取り巻きがいるのに三姫に告白って、何を考えているんだ?


 俺は、レオポン男子の森中とジャグリオン男子の雨流を、女好きのチャラ男と認定した。


「雪人は強くて紳士で優しいんだからね」


 ちょっ、それは過大評価しすぎじゃないか三姫? 恋で盲目になりすぎだろう。


「僕は学園の序列六三位で、女の子には優しいつもりだよ」


 六三位。その数字に俺は目を見開いた。


 帝和学園の生徒は、一学年四〇〇人の五年制で二〇〇〇人。そのなかの六三位となれば、かなりの上位ランカーだ。二年生の春という時期を考えれば、より凄さがわかる。


「気に喰わねぇな」


 荒っぽい声で三姫を見下ろすのは、ガタイのいいジャグリオン男子の雨流だ。


 迫力のある目力は、三姫に抱きつかれる俺を捕える。


「そいつがオレより強いってか? 三姫、お前は間違っている。お前はオレのものになるべきだ。そうすれば優しくしてや――」

「さぁ行くのよ雪人! あの筋肉オランウータンをぶっとばすのよ!」


 えー!? お前、人のこと指差して何言ってんの!?


 雨流のやつ額に青筋浮かべてんじゃん!


 どうやら三姫は空気が読めない、というよりも、人の話を最後まで聞けないようだ。


 さすがはライガー娘。性格までマイペースなネコそのものだ。


 そのマイペースさに耐えきれなくなったのだろう。取り巻きの女子たちが口火を切る。


「何よあんた! 雨流に逆らうの!? 雨流は序列五八位で二年生最強なんだからね!」

「分かる? 二年生の春で五八位なのよ!?」


 やはりレオポン男子の森中と同じで、このジャグリオン男子の雨流もかなりの実力者らしい。俺は百獣皇帝を目指してはいるが、一年間でそこまで序列を上げられる自信はない。


 ていうか、こいつが二年生最強なのか。


 俺は、あらためてジャグリオン男子の雨流浩二を眺めた。


 ジャガーとライオンの交配種であるジャグリオンという素材。


 一八〇センチは超えている恵まれた体格に、発達した筋肉。


 きっと、何か格闘技もやっていることだろう。


「一年のくせにムカつく、雨流、こいつやっていいよね?」


 全員で八人いる取り巻きの女子のうち、ひとりの女子がそう言うと、彼女の耳が獣のソレになる。続けて残る七人も手足が毛に覆われて、爪と牙が生え、獣の耳と尻尾を振った。

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