第14話 ボウリング場

 俺が最初に案内したのはボウリング場だ。


 なんとなく、光姫は体を動かすのが好きそうなので、喜んでくれると思ったのだ。


 土曜日なだけあって、そこらじゅうでピンの倒れる景気のいい音がしている。


 『獣化によるプレイ禁止』という張り紙がしてあるのは、帝和学園に近い店舗だからだろう。光姫はボウリングははじめてらしいので、俺はルールを説明しながら手本に投げる。


「よし、全部倒れたからスペアだ。もし一投目で全部倒したらストライクな。やってみろ」

「あっ、そのストライクってのは知っているわ。イイ響きよね。じゃあ見ていなさいよ雪人。恋人のスーパープレイを!」


 光姫は構えると、ほとんど間を置かずに投げた。ボウリングの球がカッ飛んだ。


 はじめてとは思えない程きれいなフォームから放たれた球は、弾丸のような速度でレーンの上を滑り、すべてのピンを砕くようにして葬った。


 球とピンを回収するピンセッターから不穏な音が聞こえたのは無視しよう。


「ストラーイク♪ 雪人♪」


 光姫は振り返りざまに平手打ちをかましてきて、でもそれは俺の目の前で空ぶった。光姫の笑顔が一転、眉間にしわを寄せて釣り目になる。


「ちょっと! こういうときはハイタッチでしょ! でなけりゃハッグッー!」


 両手で何かを抱き締めるようなパントマイムをして、光姫はくちびるをとがらせる。

 俺の素材がピズリーだからだろう。ハグと言われて、プロレスのベアハッグを思い出す。

 こんだけ俺の彼女を自称しているのだ。少しくらいふざけてもいいだろう。


「ベアハッグ」


 なんとなしに言いながら、光姫の体を両腕ごと抱きしめた。


 完全に自由を奪われた光姫は微動だにしない。ちょっと体を硬くしているので見下ろすと、光姫は、はにかんだ笑顔で俺を見上げていた。


「ふ、不意打ちとはやるじゃない。あんたのこと、ちょっと見直したわよ」


 え、まさかの好評? こいつマジで俺のこと好きなの?

 光姫の反応に俺は戸惑いながら、これは演技だ、と自分に言い聞かせる。


「じゃあ次、俺の番だから」


 俺が体を離してボウリングの球を手に取ると、光姫は不満そうに眉根を寄せた。

   

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