第13話 デート開始!



 二時間半後。電車を降りて、駅前広場へ出ると、光姫が無邪気に両手を上げた。


「街だー!」

「叫ぶなよ恥ずかしい、っておい!」


 光姫は駆けだしていた。両手を上げたまま、広場をぐるりと一周してから、中央あたりでぴょんぴょん飛び跳ねている。


 巨大ステーションであるこの駅の玄関口にあたる広場は、相当な人通りがある。広場の前には片道三車線ずつの道路が通り、駅から大通りへ伸びる道は若者からスーツ姿のビジネスマンの姿が目立った。


 ただでさえ光姫は人目を惹く容姿なのに、これでは注目のまとだ。


 今度はくるくる回りはじめたお姫様のもとへ駆け寄り、


「ったく、ガキじゃねえんだからジッとしていろよな。お前さっきだって電車の乗り方知らねぇのに突っ走るから、あやうく無賃乗車になるところだったじゃねぇか」


 切符も電子マネーも知らない光姫は、あろうことか改札のドアが閉まると飛び越えたのだ。すぐに駅員が駆けつけて、乗車賃のことを言われると財布から千円札を取り出し、


 『あたしだって電車に乗るのにお金がかかることくらい知っているわよ。お釣り頂戴♪』


 あのときの駅員の苦虫をかみつぶしたような顔を、俺は一生わすれないだろう。


「しょうがないじゃない知らなかったんだから。それを含めてサポートするのが彼氏の役目でしょ! あんたそんなこともわかんないの? バカじゃない!」

「そう思うならバカな俺なんかと街にくるなよな、他の男を探せ」


 俺が辟易すると、光姫は眉を吊り上げる。


「やーよ! あたしはあんたの彼女なんだから! 他の男なんかお断りよ!」

「ちょっ、わかったから大声出すなよ」


 さっきから周囲の人たちが足を止め、俺らに視線を向けている。

 スマホをいじっている人も多い。ネットで俺らのことが呟かれていたらと思うと、なんだかゾッとしない。


「それより雪人! あんた彼女の私服姿になんかないわけ!? 誰のためにオシャレしてあげていると思ってんのよ!?」


 文句をつけながら、光姫は腰に手を当てモデルポーズ。


 朝までは俺のTシャツ短パンにノーパンノーブラだった痴女は大きくリメイク。


 赤いノースリーブには胸の谷間が見えるスリットが入っていて、白いミニスカートからは相変わらずセクシーなふとももが伸びている。スカートと同じく白いミュールから見える形の整った足の指も綺麗で、ステキ過ぎる脚線美に視線を惹きつけられた。そんな格好を、光姫ぐらい可愛い子がしているものだから、本当にたまらない。

俺は鼻息が荒くなるのを抑え、顔が熱くなっているのを自覚しながら光姫を見つめる。


「す、すげぇ可愛いよ」

「世界一?」

「え? せ、せかいいち……」


 光姫は両手をふとともに置いて、


「宇宙一可愛いよって言って❤」

「う、うちゅういち、かわいい、よ?」

「よろしい」


 笑って、光姫は俺の腕をとる。

 二の腕におしつけられる胸の感触に、いやがおうにもドキリとしてしまった。


「ふふ♪ せっかくの初デートなんだから、しっかりエスコートして愛する彼女を楽しませなさいよ♪」


 にこりと笑いながら、かくんと首を倒して俺の顔を下からのぞきこんでくる光姫。


 やばい。超可愛い。これが俺の彼女とかどんだけ幸せカロリー消費してんの俺!?


 断言できる。


 こんなクォーターの小悪魔系金髪爆乳美少女が俺の彼女に立候補するなんて、論理的に考えてあるはずがない。つまりこれは恋愛詐欺だ。


 こいつはこのあと、俺に高い物を買わせるに決まっているんだ!


「あ、それとあたしら高校生だし、デート代はワリカンでいいでしょ? でもデートの最後に記念として安くてもいいから、キーホルダーか何かお互いにプレゼントし合お♪」


 ピュアスマイル浮かべてんじゃねぇぞゴルぁ!

 俺のネガティブパワーを返せぇええええ‼


「あれ? 雪人、鼻血でているわよ……」


 俺は、涙をこらえながら震えた。


「み、光姫がかわいすぎるからだろ」

「おっ、いまのあたし的にはポイント高いわよ。このこのぉ♪」


 俺のわき腹をひじでグリグリしてから、光姫はあらためて俺の腕を抱き寄せる。


「じゃ、今日はお願いね❤」

「ッッ。つっても、俺も北海道からこっちにきたばっかだし、詳しくないぞ」

「でもあたしより外のことは知っているでしょ? 電車の乗り方知っているし」

「ひどい基準だな」


 俺が溜息をつくと、光姫が人差し指を立てる。


「そうだ。会社の人からオススメの場所聞いているんだけど、デートの最後はラブホって名前の建物で愛を育むんだって♪ スマホで場所調べて♪」

「そいつの言うことはもう何も聞くな!」

 俺はガシガシと頭をかくと、光姫を引いて歩きだした。

「遊べる場所は調べといたよ。俺が正しい街の楽しみ方を教えてやるからついてこい」


 俺の言葉を聞いて、光姫はわずかに頬を染めながら無邪気に笑った。

 ああもう本当にかわいいなぁコイツ。

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