第12話 デート


 俺が用意した朝食を食べ終え、光姫は椅子の背もたれに体重を預ける。


「そういえばそんな話だったわねぇ。でもだからって彼女をほったらかしにするのはどうなのよ? あんたあたしの彼氏でしょ? だったら彼女を楽しませるのは義務よ義務!」


「彼氏じゃねぇし。とにかくそんなわけだから、俺は少しでも序列を上げるために今日から体力作りするんだよ。てっとり早く序列を上げるには序列上位者に決闘を申請して勝つことだ。それに授業や任務の成績だって加味される。俺は今日から勤勉になるんだ。女とイチャコラしているヒマなんてないんだよ」


「あら、そういうことなら手伝ったげるわよ」

「手伝う?」

「ええ。赫が言っていたでしょ。任務の結果も評価されるって。ライガーのあたしと組めば、どんな危険任務も楽勝じゃない?」


 得意げに笑う光姫に、俺は一瞬迷ったが断った。


「それじゃあお前を利用しているみたいじゃんか」

「え~、じゃあさじゃあさ、あんたの任務は手伝わないから街を案内してよ」

「どんだけ横暴なんだよ! もしかして街に行かなきゃいけない理由でもあんのか?」


 俺の問いに、光姫は唇をとがらせる。


「そういうわけじゃないけど、街に出たことないんだもん」

「街に出たことがない?」


「ええ、あたしずっと帝和グループの施設で育ったから。いっつもスケジュール通りにしか行動できないし自由時間は施設のなかだったしさぁ。郊外見学っていうので外には何度も出ているけど、自由にいろいろ周りたいじゃない? パパとママが生きていた頃は色々なところに行っていたと思うんだけど、あーそうそう、あたしのママ、ハーフでね、綺麗な金髪だったんだぁ。ママゆずりのこの金髪は自慢なのよ、ってどしたの雪人?」


 俺は右手で顔を覆いながら、左手をテーブルについて震えてしまう。


「いや、まさかお前がそこまでハードな設定だったなんて思わなくてな……」


 何この子。どこの薄幸系ヒロインだよ!? これじゃあ俺が極悪人みたいじゃないか!


「ねーねー雪人―、どうしたのよ急にぃ」


 光姫はキョトンとしながら俺の顔を覗き込んでくる。俺は罪悪感にうちひしがれながら、自分に言い訳をする。


 まぁ、初日ぐらい遊んだってそれほど影響はないだろう。


 そうだ、明日からがんばろう。


 なんだかいま、道を踏み外した気がするけど気にしないでおこう。


「わかったよ。じゃあ二時間したら街行こうぜ」

「おっ、ようやく雪人もあたしの彼氏って自覚が出て来たわね。感心感心♪」


 うんうん、と満足げに頷く光姫。


「だから彼氏じゃねぇって」


 両親や施設のことは気になるが、聞いていいのだろうか?

 俺が悩んだとき、チャイムの音がして光姫が立ちあがる。


「あ、きっと帝和グループの人だわ。あたしの荷物を届けに来たのよ」


 俺は、さっき光姫が言っていた言葉を思い出す。


「そういえばさっき今日届くとか言っていたよな……って、おいまさかマジでここに住む気じゃないよな? お泊りセットって意味だよな?」

「ううん、あたしも今日からここに住むのよ」

「いやおかしいだろ!」

「おかしくないわよ。だってここ男子寮じゃないし」

「うっ、それは……」


 光姫の言う通りだ。男子が一クラスに一人しかいないこの学園の寮は、男女別には別れていない。俺の部屋のお向かい三件両隣の住人は全員女子だ。


「でも男女が同じ部屋なんて学園が許すわけがないだろ」

「え? あたし昨日、帝和グループに電話して正式に雪人と同じ部屋にしてもらったわよ。むしろあたしが彼氏見つけたって言ったら大喜びしていたんだから♪」


 彼氏ができたら喜ぶ? こいつって施設で可愛がられていたのか?

 光姫は金髪碧眼の美少女だ。きっと幼い頃からお人形さんのように可愛かったんだろうし、職員の間で可愛がられていても不思議ではない。


「えへへー、なに着ていこっかなぁ♪」

「って、その姿で出るな!」

 ノーパンノーブラのセクシー少女を部屋の奥へ引っ込め、荷物は俺が受け取った。


  

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