第9話 朝食
あれから意識を取り戻した俺は、光姫に俺のシャツと短パンをはかせ、興奮冷めやらぬまま朝食の準備をしていた。
味噌汁を煮ながら、俺はフライパンに油をしき、ベーコンをのせ、両手に卵をひとつずつもってフライパンの縁に当てた。片手で卵を割り、同時にふたつの生卵をフライパンに落とすと、ジュワッっと食欲をそそる音が鳴る。
あとは少量の水をくわえ、フライパンにふたをした。
いちれんの動作を、光姫は俺の横で興味深そうに眺めている。
「へぇ、ベーコンエッグってそうやって作るんだ」
なにこいつ、ベーコンエッグの作り方も知らねぇのか? それとも黄身に白い膜を張る方法を知らないのか?
世間知らずなのか、それとも料理にうといのか。そういえば昨日から俺の彼女になるとか言っているけど、俺って光姫のことなにも知らないよな。
こいつはなんなんだ? と俺は光姫を訝しみながら、炊飯器の白米を茶碗によそった。
ふたり分の茶碗に白米をよそい、碗に味噌汁をよそい、食卓テーブルに運ぶ。それからIHコンロを切る。あとはフライパンの余熱だけでベーコンエッグは半熟になるだろう。
そのあいだに俺はふたつのコップに牛乳をそそぐ。ていうか、なんで俺は光姫の分まで朝飯を用意しているんだろうね? まぁ、いくらおしかけ迷惑女子でも、女の子を朝飯も食わせず外にほっぽり出すのは気がひけるしな。
「ねぇ雪人。今日は土曜日だから学校休みなんでしょ? 街に連れていきなさいよ」
「は? なんで俺がそんなことしないといけないんだよ?」
「だってあんたあたしの彼氏でしょ? 彼氏なら休日は彼女とデート。これぐらい基本よ。言っておくけど、あんたに拒否権なんてないんだからねッ」
偉そうに胸を張る光姫。ただでさえ大きな胸が強調されて、俺はつい視線が下がってしまった。慌てて目線を上げ、誤魔化すように語気を強める。
「彼氏じゃねぇし。勝手に決めるなよ」
言いながら、俺は横目で光姫を眺めてしまう。
いまの光姫は俺のシャツと短パンを身に着けているとはいえ、ノーパンノーブラだ。シャツは爆乳の形に押し上げられて、先がツンととがっている。肉付きのいいセクシーなふとももだって丸見えだ。
昨日まで着ていた下着を着けるよう言ったが、一度脱いだ下着を着るのは抵抗があるとかで断られた。嘘だ。絶対に俺を誘惑するためだ。
現にいまだって、胸の下で両腕を組んで持ちあげ、爆乳を強調している。
すると光姫は急に、匂いをかぐような仕草をした。途端に、ニヤリと意味深に笑う。
光姫の青い瞳は、俺の欲望を見透かしているように妖しい光を帯びていた。
俺はまた、慌てて視線を逸らす。なんていうか、この状況で光姫の首から下を見ると、俺の負けになる気がする。それは男のプライドが許さない。俺は、何がなんでも見るものか、という鋼の意志を固めた。
「ブラしていないと重たいなぁ」
マッハで首が光姫へ回った。ビキッと音がして俺は顔を苦悶にゆがめる。光姫が目に涙を浮かべて笑っているのが激しくムカついた。俺は、仕返しとばかりに光姫に冷たくする。
「ていうか昨日も言っただろ。俺は妹を助けるために百獣皇帝になるんだから。色恋なんてやっているヒマねーの。これ食ったらさっさと帰れ」
フライパンのふたをとると、美味しそうな匂いがキッチンにたちこめる。俺がベーコンエッグを皿によそうと、光姫は首を傾げた。
「昨日? なんで百獣皇帝になると雪人の妹ちゃんを助けられるんだっけ?」
ベーコンエッグをテーブルに運ぶ最中だった俺は、思わずズッコケそうになる。
「って、都城先輩の話を覚えてねーのかよッ」
「んー。なんだったかしらねぇ。なんか学園の制度について色々と話していた気が……」
人差し指をこめかみに当て、頭を悩ませる光姫。
どうやら、最初からちゃんと聞いていなかったらしい。
仕方なく、俺は光姫に昨日のことを説明することにした。
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