第8話 彼女が全裸で寝ていた

 帝宮光姫は全裸で寝ていた。


 豊かに発育したバストは重力と融和してドーム状につぶれ、彼女の寝息に合わせて上下する。視線を下ろせば、扇情的にすぼまったウエストのチャーミングなおへそ、そして申し訳程度の薄い金色が……


 目の前の光景、光姫の姿を脳味噌が処理できず、理解は遅れてやってきた。


 頭のなかで『HADAKA』は『裸』になり、ようやく理解した。俺はいま、爆乳美少女の裸を目にしている。


 鼻から大きく息が噴き出した。俺はまばたきを我慢して光姫の裸体に見入った。きっといまの俺は、ものすごく醜い顔をしていると思う。


 でも我慢なんて無理だ。こんなラッキースケベに遭遇すれば他に選択肢などない。


 光姫はいつ起きるかわからない。なら一秒でも長く見て目に焼き付けたい。


 ラブコメ漫画の主人公なら悲鳴を上げながら目をつぶる紳士的行動にでるんだろうけど俺は漫画のキャラじゃない!


 だいじょうぶ。ここは俺の部屋、俺のベッド。俺はなにも悪くない。この女が俺の部屋で勝手に裸になっているだけだ俺は無罪!


 光姫が目を覚ましたらすぐに布団をかけて『ば、バカ、なんでお前裸なんだよ!』と、あたかもたったいま布団をはがしてしまった感を装えばいい。その前に悠久の時があろうと寝ている光姫にはどうせわからない。それに、光姫が俺を変態よばわりしたら俺は警察に『痴女が不法侵入してきました』と言えばいい。


 完璧だ。完璧すぎて自分の才能が怖いぜ北海雪人!


 光姫は横に倒していた首をまわし、桜色のくちびるを天井に向けた。


 いまの動きで、光姫の豊満過ぎるおっぱいが揺れた。くちびると同じ色の艶やかな頂点がひときわ大きく踊って、俺は息を吞んだ。


 すげぇ……


 何秒か、何分か、何時間か。時間という概念がゲシュタルト崩壊するほど、俺は光姫のハダカを注視した。看視した。凝視した。熱視した。むしろ視姦した。


 したたる汗を握りしめ、寝巻のTシャツを背中に貼りつけながら、俺は人類が最も発達させた知覚力、視力をいかんなく発揮した。


 ほどよく肉づいたふとももが、くびれた腰が、外人モデル顔負けの爆乳が、薄ピンク色に染まって上気した頬が、俺をみつめる淫卑に濡れたサファイアブルーの瞳が、えっ?

 

 俺と光姫の視線が交差する。互いを互いの瞳に映し合うなか、光姫は幸せそうにまぶたを閉じると、くちびるをちょっと尖らせた。


「ん……雪人……」

「ぎゃぁあああああああああああ! あっそうだ! ば、バカ、なんでお前裸なんだよ!」


 いまさら作られたセリフを喋る俺に、光姫は足を閉じ、腰をまわして照れた。


「んーとね、あたしの荷物が届くのは今日だから、昨日の夜は裸で寝たんだけどぉ」


 パチっとウィンク。


「コーフンした?」


 光姫が腰をまわしたことで、今度は大きくまるいお尻が俺の目に飛び込んでくる。光姫は俺の視線に気づいているのかいないのか、俺が息を吞む間に、やや動揺した声で、


「で、でもまさか雪人がここまで大胆だなんて思わなかったわ。ま、まぁあたしぐらい可愛くてスタイル抜群のセクシー美少女ならとうぜんよね。許してあげるわ♪」


 言いようの無い失敗をしたような予感に、俺は奥歯を噛みしめた。


「あの、つかぬことをお聞きしますですが、いつ頃から目を覚ましていたんで?」

「さっきからずっとよ。フフ♪ 起きたら雪人があたしの体をなめまわすように見ていて、恥ずかしかったけど雪人が望むのならあたしは……ね❤」

「ね、じゃねぇ!」


 最悪だぁ。俺の欲望まみれの醜い顔を女子に見られたなんて、なんという黒歴史。

時間よ巻き戻れ! と俺は熱望した。


 ていうかこいつ、獣化した時と全然性格違うのな。俺が見惚れた、あの美しき金色の戦女神はどこへやら。いま俺の目の前にいるのは、羊の姿をした小悪魔だった。


「無理しなくたっていいわよ、っと」


 全裸の爆乳美少女が俺に跳びかかってきた。

繰り返そう。全裸の爆乳美少女が俺にとびかかってきた。


「あんぐぁ!」


 俺に抱きつき絡みついてきて、光姫の魅力的過ぎる爆乳が、俺の胸板で押しつぶれる。やさしい低反発力で乳首が、そしておっぱい全体が俺自身に甘えてくる。


 おっぱいが甘えてくる。なんて素敵な言葉だろう。


 心臓が飛び出しかけて奇声が漏れてしまった。


「ほらほら、あんたはあたしの彼氏なんだから、いちゃいちゃしましょ♪」

「っっ、つうか、なんでお前そんなに俺のこと好きなんだよ。強いやつが好きなら、都城先輩のほうだろ? 序列一位だし、同じネコ科でバーバリーライオンなんだぞ?」


 昨日から光姫は俺の彼女を自称し、名前呼びまで強制してくる始末だ。


「そんなの関係ないわよ。あたしはね雪人、あんたを目にしたとき、びびっときたのよ」


 そう言って、光姫はうっとりと頬を緩めてテンションを上げ、声をはずませた。


「獣王ふたりを相手に啖呵を切る剛毅さ。ライオンの牙を堂々と受ける胆力♪ 百獣の王を一撃で屠る腕っ節♫ 密林の王者を脱兎に変える威厳❤ 雪人の雄度にあたしのハートはオーバーヒート! 雪人に恋するあたしは序列一位だろうがバーバリーライオンだろうが目に入んないわ! 恋はタイフーン! ライガーの恋はハルマゲドンなんだから❤❤」


 瞳に流れ星を走らせ、光姫は腕に力をこめて、俺を強く抱き寄せる。おっぱいの感触も、より確かに感じてしまう。甘い感触に肺がマヒして、俺は満足に呼吸ができない。


 俺は大きめのゆるいTシャツを着ているが、もしもシャツ越しではなくナマだったら、どうなってしまうんだろう。


「それにぃ……」


 光姫の姿が消失。いや、すばやく身をかがめ、俺のTシャツの裾に頭から突っ込んできた。光姫の体温と甘い快楽が、俺の腹を、みぞおちを駆け上がり、胸板へと抜けていく。


 一枚のシャツのなかで俺に抱きつく光姫の吐息が、俺の耳元をくすぐった。


「あたしは、あんたが最強だって信じているわ。雪人なら、あのバーバリーライオンにも勝てる。だって雪人はあたしの彼氏なんだから❤」


 ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおふぁああああああああああ‼


 光姫のナマ乳が、俺の地肌に甘えてくる。


 光姫の吐息が耳元から俺の脳髄を溶かして、爆乳が脊髄から腰をトロかす。


 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ‼


 量感たっぷりの肉厚な爆乳が、全体的に押しつぶれて、俺の胸板全体を平等にまんべんなく埋め尽くす。


 スゴイスゴイスゴイスゴイスゴイスゴイスゴイスゴイスゴイスゴイスゴイ‼


 左右のおっぱいの中央が、それぞれ強めに主張してくる。その二点の正体に気づき、俺は自分が何かの壁を乗り越え、新世界に辿り着いたことを悟った。


 やべぇ……マジできもちぃ。


 女の子って……おっぱいって……爆乳って……こんなにすごかったのか……


 鼻から熱い血潮を噴いて、俺の意識はそこで途絶えた。

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