第7話 もっとも美しい動物 ヒロイン登場です

 そういえば、この子は何の獣人なんだ?


 金色の毛並みや爪、耳、学園の制服であるミニスカートから覗く尻尾はネコ科のソレだ。でも耳の裏はトラのように白黒で、耳のなかはライオンのように金色だ。それにトラ男が反応できないほどのスピードに、一撃でトラ男の巨体をふっ飛ばすパワー。


 スピードもパワーも、明らかにトラとライオンを越えている。


 俺の素材であるピズリー以外に、そんな動物がいるのか?


「なぁ、お前の名前は?」


 俺に呼ばれると、彼女はパッと表情を変え、上機嫌に振り返ってくれる。


「ふふ、婿殿はさっそく私に興味津々だな」


 彼女は右手を腰に当て、無意識なのだろう、自然な動きで体にしなを作り、俺の心を誘惑してきた。


「私の名は帝宮(みかどみや)光姫(みつき)。ライオンとトラのハーフ、ライガーの獣人だ」


 動物好きの俺は息を吞んだ。


 ライガー。

 ライオンとトラの間に生まれる交配種だが、その体格は親の二倍に成長しながらも敏捷性や運動神経を一切損なわない奇跡の猛獣であり、地上最大の肉食獣だ。


 そうやって俺が驚嘆していると、優しい拍手が近づいてきた。


 とっさに振り返ると、ひとりの男子生徒が女子たちのなかから現れる。


 背は高く肩幅も広い。力強くも軽い足取りは、武術の達人を思わせた。


 その男子生徒の着る制服は、俺らとは違い専門生、四年生か五年生のものだ。


 その男子は大人びた雰囲気で、爽やかに笑う。


「すごいねふたりとも。僕は都城赫(みやこのじょうてらし)。この学園の序列一位だ。僕と、少し話さないかい?」


 トンデモないビッグネームの登場に、俺は目を丸くした。


 都城赫。その顔と名前は、学園の外にまで響いている。


 専門生の身で、仕事ではプロ以上の活躍をしてテレビや雑誌でもよく取り上げられている。そしてなによりも有名なのは彼の素材だ。


 バーバリーライオン。

 最も立派なタテガミを持つライオンで、野生では絶滅した地球史上最大のネコ科動物だ。

 ライオンを百獣の王と呼ぶのなら、バーバリーライオンは百獣の大王と呼べるだろう。


 そんな大物に誘われて、俺は獣化していながら手に力が入った。


   ◆


 都城先輩と出会った次の日の土曜日。俺は寮の自室で寝入っていた。


『午前、七時になりました。パソコンを立ちあげます』


 女性声優の声が、俺の意識を優しく呼び覚ます。まぶたは開けないまま、耳だけで朝がきたことを確認する。ノートパソコンは起動すると、俺が設定したチャートを開始した。


『新着メールはありません。おすすめの記事は四件あります。お気に入りに登録したサイトのうち六件が更新されています。おすすめの動画は二件です』


 きっと、パソコンのデスクトップではネットのウィンドウが表示され、ネット記事、サイト、動画の数だけタブが開いていることだろう。


 最近のパソコンには、チャートという機能がついている。多くの人はパソコンを起動させると、まずメールを確認するとか、毎回決まった操作がある。チャートは、その操作を自動で行う機能だ。


『動画のキーワード検索結果は、一致する動画がありません』


 最後の言葉に俺は落胆する。過去に削除されてしまったお気に入り動画がもう一度アップされないかと、俺は時々検索していた。いまではチャート機能がそれを代行してくれる。


 ただ、そううまくいくはずもなく、毎朝こうしてちょっと落胆している。

 まぁそれも朝の儀式だ。

 と俺はまぶたを上げた。目の前に光姫の寝顔があった。長いまつ毛が美しい。


「はぁっ!?」


 反射反応で叫んでしまった。体よりも先に心臓が飛び起き、一瞬で目が覚める。


 どうやら光姫は、俺のすぐとなりに寝ているらしい。


 俺は飛び起きると、二、三度と頬をひくつかせてから、冷静に怒った。


「てめぇは人んちでなに勝手に寝てんだよ!」


 首を横に倒し、体は仰向けになって眠る光姫の掛け布団に手をかけると、俺は一気にひっぺがす。でも俺は、それ以上なにも言えなかった。


 帝宮光姫は全裸で寝ていた。

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