第3話 エリート学園に入学します
獣人として、一流企業の帝和グループに入社する方法はひとつだ。それは、帝和グループが経営する学校、帝和学園を卒業することである。
帝和学園へ入学するためには、まず帝和グループで獣化手術の適性検査を受け合格する。それから入試を突破し、いくつかの誓約書にサイン。将来は帝和グループで働くことを確約すると、無料で獣化手術を受けられる。ここまでくれば晴れて入学となる。
ただし、男の適合者は貴重なので、俺は入試を免除された。
二〇五一年の三月。
中学校の卒業式を終えた俺は北海道を発った。本州にある帝和グループ本社で獣化手術を受けると、入学式までは会社の施設で過ごした。そこで、獣化の訓練をするのだ。
最初は、休眠中のX染色体を起こすなんてどうすんだよ、と疑問だったが、なんてことはない。ようは興奮すればいいらしい。
気持ちを昂らせ、闘志を燃やす。体の奥がカッと熱くなったら、熱が全身に伝播して、一気に獣化がはじまった。この感覚をつかめれば、あとは特別に興奮しなくてもいい。スイッチを切り替えるように、いつでも獣化できた。
そして二〇五一年の四月。俺は、帝和学園の入学式を迎えた。
◆
これは、想定外だったな……
入学式を終え、一年一組の教室にて、俺はとある問題に直面していた。いや、こんなことは百も承知で、前々からわかってはいたさ。
でもあれだ、想像以上にキツイって意味で、え~っと……
「よかったー、うちのクラスに男子いたんだぁ♪」
「女子だけじゃつまんないもんね❤」
「ねぇねぇ、名前教えてよ?」
「えと、北海(きたみ)雪人(ゆきと)」
男子はクラスに、俺ひとりだった。
クラス表を確認したが、男子は各クラスにひとりずつ。
知っているぞ、これってあれだろ? 去年まで女子校だったのが今年から共学にしましたって学校で起こる現象だ。
なにせ、男子は一〇〇〇人にひとりしか獣化手術を受けられない。いや、仮に一〇〇〇人にひとりの確立でX染色体が二本あっても、適合する動物がいなければ入学できない。
X染色体が二本あって、最低限の利用価値がある動物に適合する男子。そりゃあひとクラスにひとりぐらいしかいませんよね? 三毛猫のオスがごとくレアな男子がそこらへんにいるわけがないのだ。
女子たちはキャイキャイワイワイ、興味本位で俺を取り囲んで、勝手に写メまでしてくる。一見するとハーレムに見えるかもしれないが、日本中の男子高校生に教えてやりたい。
これかなり気まずいぞ!
女子たちは俺の机に手をつき、前のめりになって話しかけてくる。
「北海くん北海くん。休みの日は何してんの♪」
「まぁ……動物番組と動画を見ているかな……」
俺だって思春期真っ盛りの男子だ。そりゃあ女子に興味はある。でも同時に、俺ぐらいの男子からすれば女子なんて未知の生物だ。宇宙人だ。興味はあるが、ヘタに近づけば何が起こるかわかったもんじゃあない。
ただでさえこちらとら年齢イコール彼女いない歴のピュア男子だっていうのに、少しは遠慮してほしいものだ。しかも、
「ねぇ、北海君はどこから来たの?」
「ほ、北海道」
美少女たちに迫られて、息を吞みながら俺はそう答えた。そう、美少女だ。このクラス、いや、この学園には美少女しかいないと言ってもいい。美少女率一〇〇パーセントだ。入学試験のとき、合格基準に容姿も含まれているのではないかと思ってしまう。
「素材は? 何の獣人?」
「く、クマだよ」
「えー! すごーい! あたしなんてキツネだよッ」
思春期男子にとって女子は未知の生物だが、美少女はさらにその上をいく。だんだん背中に変な汗が浮いてきた。
俺は、一〇〇〇人にひとりの奇跡に当たって、しかもクマなんていう強い動物と適合した。もしかして、これから俺の勝ち組ストーリーがはじまるのだろうか、なんて、くうき世代らしからぬ期待がなくはない。
だからといって、いきなり変われるわけじゃあない。中学時代、女子グループと仲良くする男子がいたけれど、いきなりアイツのようにはなれない俺だった。
そのとき、教室のドアが開いて担任の先生が足早に入って来た。
おかげで、女子たちは全員、自分たちの席に戻った。俺にとって先生は救世主である。
が、次の瞬間、俺はまばたきをしながら固まった。
教室のドアが開いたとき、この学園の先生たちが着る大人用の制服が目に入ったので、俺は反射的に担任の先生だと思った。たぶん、みんなもそうだろう。でなければ、一斉に自分の席に戻ったりはしない。
なのに、よく見れば来訪者はかなりのチビだった。小学生と言っても信じてもらえるだろう。黒髪をツーサイドアップにした少女が、でも確かに教師用の制服に身を包んでいる。
つぶらな瞳にぺたんこの胸。小さな手足がとっても可愛い子だった。
これはあれか? 実際は二十歳過ぎだけど小柄で童顔だから見た目はロリっていう合法ロリか? ロリババアなのか?
などと俺が失礼極まりないことを想像していると、その少女ちゃんは教卓のタッチパネルを操作した。
すると黒板、少女ちゃんの背後の壁を覆う巨大有機ELの画面が起動する。うちの父さんが子供の頃は、本当に板にチョークで字を書いていたらしい。いまでもその名残で、教室の巨大メイン有機ELを『黒板』と呼んでいる。に、人の名前が表示された。
少女ちゃんが、とびきりの笑顔で幼い声をあげる。
「というわけで、私は影場(かげば)忍(しのぶ)十一歳です♪ 帝和グループの孤児院で育って、去年、義務教育課程と教職課程を飛び級合格しました。皆さんより年下ですけど、先生には敬意をもってくれないと、血を吸っちゃいますよ♪」
シノブの両腕が黒い翼となり、口には牙が、耳がコウモリのソレになる。
みんなに向かって牙を剥き出して『ガオー』っと両手をあげるシノブ。
その姿に、女子たちが和んでいる。
「シノブンはコウモリの獣人なのー?」
「その通りです♪ お空も飛べるんですよ♪」
おい先生よ。さっそくシノブンとか敬意のかけらもない呼び方をされているがいいのか? おいおい、最前列の女子に頭をなでられて喜んでいる場合じゃないぞ。あ、お菓子もらっている。十一歳とか言っているけど精神年齢は七歳ぐらいしかないな。
昔と違い、いまの日本には飛び級制度がある。でも、こんな子供が俺らの担任でいいんだろうか?
俺は、入学初日からこの学園に不安を感じてしまった。
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