第30話 暗闇でこっそり
隠し通路を下りた先はルームと呼ばれるあの隠し部屋につながる狭い空間だった。そこでミエルと
三階では
「ねえ、
晶子が抑えた声で問いかける。
「あんた、高校生のくせにずっとこんな仕事をやってるの」
「そんなことないよ。いつもはパブのメイドさんとかお店のヘルプとか、そういう仕事だよ」
「ちょっと待つし。パブとかヘルプって、それって夜のお店でしょ。そんなところでコスプレまでしてるんだ」
「ち、違うってば、それはママの命令で……」
「フンッ、妙に様になってるとこなんて、仕事だけとは思えないし」
「でも、まあ、確かに嫌いじゃないけど……」
「ほら、やっぱり。マジ信じらんないし。それで学校では男子として何食わぬ顔で授業を受けてるなんて……そう言えば前にあんたが言ってた休学してるって話、きっとあれもウソだし」
「ご、ごめん」
「フンッだ、あんたはそういう人間なんだし。そうやってあっちこっちで出まかせを言ってる探偵気取りの
ミエルは晶子の言葉を黙って聞いているしかなかったが、それでもこうして言いたいことを言って来るのは悪い兆候ではない。それはまだ晶子が興奮状態にあるからかも知れないが、それでもふさぎこまれるよりはずっとマシだと考えていた。
「まずは名前を教えなさいよ。
「
「ふ――ん、美絵留じゃなくてミエルってわけだ。それじゃミエルに次の質問。こんな仕事をいつからやってるの? 誰の命令なの? なんか秘密兵器みたいなの持ってたりするし、こんな夜中にお迎えを呼ぶとか、やっぱ普通じゃないし」
今回の仕事では晶子に助けられていたことは確かである。それに学年は違えども同じ学校の生徒でもある。それならば下手に隠し事をして妙な詮索をされるよりも彼女を信頼してすべてを話してしまうのも手かも知れない。ミエルは瞬時にそんな計算をした。
「晶子、これから話すことは他言無用だよ。特に学校では絶対に秘密だ。君を信じて話すんだ、いいね」
暗闇の中で晶子はミエルの言葉に小さく頷いた。
「ボクの名前は
「夜のお店でバイトなんて、学校にバレたら
「うん、でも今のところはなぜかセーフなんだ。きっとママがうまくやってくれてるんだと思う。他にもたまに調査みたいな仕事もやってるんだ、ほんとにたまになんだけどね。今回もこの店のことを調べてたのも仕事のためで……ごめん、これ以上詳しいことは話せなくて」
「やっぱりね、なんかおかしいと思ったんだ。作戦とか道具とか、それにルナティックでのメイドが妙に似合ってたのも、これで納得だし」
「そう、だからメイドも女装も仕事のうち、ママの命令なんだ」
「うそつくなし、さっき自分で好きって言ってたし」
「あ、そ、それは……」
「それで、さっきからやたら出てくるママって誰だし」
「あっ、ママってのは遠い親戚の人で、ボクはその人のお世話になっていて……」
「ちょっと待つし。それじゃ大悟
ミエルはもう少し声を潜めるように晶子の口に指をあてると小さく首を振って続けた。
「ボクに両親はいないよ。中一のときに事故で死んじゃったんだ。それでママがボクを引き取ってくれて、それからママはボクにいろいろなことを教えてくれた。この街のことも仕事のことも、それに最低限の護身術も習わせてくれてるし学校にも通わせてくれてる。だからボクはママに感謝してるし、今の生活もそれなりに楽しいと思ってる。もちろん危ないことや怖いこともあるけど、でもこれはこれでいいと思ってるんだ」
思いもよらぬミエルの身の上話に驚かされるばかりの晶子は暗闇の中で小さなため息をついた。そしてミエルはルームの外の様子を気にしながらさらに話を続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます