第29話 オマエたちに明日はない
窓から射し込む光だけを頼りにして、
「美緒、そっちはどうだ?」
「ダメね。タンスも引き出しも全部見たけど封筒どころか紙キレすらもないわ」
「こっちもだ。ベッド周りも本棚も、家具の裏にも何もありゃしない」
二人は何もかもが散乱した部屋の真ん中で呆然とするばかりだった。
「なあ美緒、本当にここにあるんだよな。やっぱ銀行の貸金庫だったなんてことはないよな」
「それはないわ。だって店のキャッシュフローは私が握ってるのよ、銀行にだって私が行ってたし。少なくとも店名義の貸金庫なんて持ってないわ」
「あとは
「あのお姫様はね、通帳もキャッシュカードも私に預けてたのよ。その前は
海斗は少しの沈黙の後、再び美緒に問いかけた。
「もう一度聞くがバックヤードにはないんだよな」
「もちろんよ。あの部屋だって仕切ってるのは私よ、もしあったならとっくに見つけてるわ」
「ということは……」
海斗は部屋の片隅に置かれた
「やっぱりな、これってフタが開くんだ」
その声に美緒も楽器の前にやってきて二人でそれを覗き込む。しかしそこにも彼らが求めるものはなかった。海斗は開けたフタを戻して落胆の声を上げた。
「クソッ、ナイスなひらめきだと思ったんだけどなぁ」
すると今度は美緒が声を上げた。
「ルームよ。あそこにもこれに似たのがあるわ。これよりもひと回り大きい、そう、スピネットって楽器よ。それこそ『おじいさまの形見』なんて言って
「それだ! 美緒、
二人が暗い階段を駆け下りると、そこには窓から差し込むほのかな光を受けて立つ三つの人影があった。背後に二人の男を従えて腕組みをしているのは
「
「白々しいね、ウチを見捨ててバックれたクセに」
「い、いや、そういうわけじゃないんだ……」
言葉に詰まりながらも言い訳する海斗を囲むように
「ま、待ってくれ。プロジェクトは失敗したわけじゃねぇ、まだ続きがあるんだ。とにかくこの店の権利書をゲットできればよ、デカいシノギになるんだ。そうなればあんたにも余禄が行くし、それでお互いウイン・ウィンだろ」
うわずった彼の言い分を黙って聞いていた
「もっと早くて確実な方法があるね」
その瞬間、海斗は背後でいやな気配を感じた。恐る恐る振り返るとそこには
「み、美緒……お、おい、てめえら、いったい何しやがったんだ」
すると
「美緒には眠ってもらったよ。頭のここのあたりにツボがあるのさ、呼吸のツボがね」
「ウチらは卸した品物の代金を回収する。そして見込んでいた利益、これはワカマツの失敗で失った分ね、それを補償してもらう。これでチャラになるよ」
「てめえ、まさか俺たちに……」
「お察しの通り保険を掛けてるよ。契約者は連盟の事務局、受取人はウチらでね」
「連盟って、まさか……」
「さて、話は終わり。自分の不始末は自分でつけるのがゲームのルールね」
「さあ、二人を車に乗せて」
彼女の命令で二人の男が海斗と美緒を彼らの白いミニバンに運ぶ。運転席には海斗を助手席には美緒を座らせると最後に
「フフフ、やっぱりあったね」
彼女は美緒のバッグから消音器付きの小型拳銃を見つけ出すと二五口径の銃口を美緒の後頭部に当ててためらうことなくその引き金を引いた。続いて海斗の喉笛にも一発、むせるような硝煙の匂いが車内に立ち込める。
「ボニーとクライドも最後は死んだね。オマエたちにも明日はなかったよ」
すべてを終えた
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