第8話 明日葉晶子の追及
「待って、待ってよ!」
街路灯の光だけが舗道を照らす寂れた飲食店街に少女の声が響く。しかしその声に足を止めることなくミエルは先を急いだ。すると今度は小走りの靴音、彼の視界の端に背後から近づく影が映る。
「シカトしないでよ、
店での名を呼びながら彼の前に回り込んで来たのは
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「あんたって何者? ウチの制服着てるってことは
これはやり過ごせる状況ではないな。そう考えたミエルは面倒臭そうなため息に続いて
「と言うことは
「そうよ、二年の
ミエルは母方の姓である「秋津」に夜のバイトでの源氏名であるミエルに漢字をあてた偽名を店に届け出ていた。彼はその名を
「私は
「学校、行ってないの? どうして」
「それは……」
「もしかして、イジメとか……?」
「う、うん、ちょっとね。でも心配いらないわ、親戚が勉強を教えてくれるし保健室で試験も受けてるし」
「ふ――ん、
「
「
「わかったわ。それで晶子はひとり暮らしなの? ご家族は……って、これは聞いたらいけなかったかしら?」
「
「お兄さんがいるの?」
「過去形よ。死んじゃったの、ついこの間、車にはねられて」
「あ……ご、ごめんなさい」
「別にいいわ。それに生活があるから落ち込んでるヒマなんてないしね。だから
やはり
なるほど、これで彼女が仕事中に時折見せる落ち着きのなさにも合点がいく。しかしミエルはこれ以上の探りを入れることはしなかった。長話がよい結果を生むことなんてないのだ、これ以上の会話は控えよう。
交差点に立つ二人の目の前で信号が赤から青に変わった。ミエルはこのタイミングを逃さなかった。
「青になったわ、急がなきゃ。
ミエルは晶子の言葉を待たずに手を振りながら
ミエルがもう一度背後を振り返ると広い通りの向こうでは晶子があきらめたように肩を落として去っていくのが見えた。
「ボクだってまだ何も見つけてないんだ。なのに晶子が焦って暴走なんてことになったらそれこそ大ピンチだ。まったくもう、余計な気配りが増えちゃったよ」
新宿二丁目
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