第7話 スパイがここにいる
閉店時間の午後十一時、店の二階にあるロッカールームで着替えを終えた
「みなさんお疲れ様でした、お先に失礼します」
まだまだ新人の二人は丁寧に頭を下げると揃って店を後にした。
今夜はもう閉店するつもりでいた
階段を上がる二つの足音が静まるとしばしの静寂に続いて
「まったく気楽な人たちだこと」
バックヤードから出てきてカウンターの前でぼやく
「そう言うな
「確かにそうなんだけど、でもときどきイラッとするときがあるわ。だって面倒な事は全部こっちまかせ、それであの人は今夜もああしてお姫様気取りで
「ところで
そう言ってバックヤードに戻ろうとする
「
「そうね
美緒は
「それじゃ時間を戻すわね。とりあえず一時間、あとは三分刻みで状況が更新されるわ。さ、見ていて」
美緒がマウスを操作して再生アイコンをクリックすると、店の座標でオレンジ色のマーカーが点滅を始めた。そしてそれは経過時間が今からちょうど十分前を示したところで動き始める。次の三分で店の前の通りに、また次の三分で
「見たでしょ、今の。おそらく信号を渡ったあたりで電源を切ったのよ」
「電源って、何の電源ね。いったい何か?」
「GPSよ。スマホのアプリかしら。でも仕事の最中はスマホ禁止だからもしかすると小型の発信機か何かかも。とにかく自分がこの場所にいることを誰かに知らせてるんだと思うわ」
「
「それでね、ちょっと面白いものを見つけたの。
美緒は最近覚えた中国語のワンフレーズとともにデータベースシステムを起動する。
美緒はデータベースにアクセスするとおもむろにSQL文を打ち込んでそれを実行した。一瞬で現れる飾り気のないマトリクス表示の画面を
「これは店の会員データ、おもてなしの招待客よ。今ここに出てる名前をよく覚えておいてね。それでお次はこれ」
データベースの検索結果を最小化した次に表示されたのは履歴書をスキャンした画像だった。そこに貼付された顔写真、切りそろえられた前髪にポニーテールのその姿は今さっき帰宅した
「ほら、この子の名前をよく見て」
「明日葉……これは『あしたば』でよいか?」
「そうよ、この子の名前が
「
「そうね、ウチの会員名簿には本人の情報しか載ってないけど
「それは厄介なことね」
「ただこの子が何をやろうとしてるのかまではちょっとわからないの。だから当面の間はここに余分な在庫なんて置かない方がいいと思うわ」
「
美緒はデスクトップに開いたウインドウをすべて閉じるとパソコンもシャットダウンする、待機中のアイコンを横目にまたもやぼやきながら。
「間抜けな
「
「ならいいんだけどね……って、あ、もうこんな時間。
「うん、美緒、
「お疲れさま、
私服に着替えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます