第39話 投票日

 選挙当日。


 大会議室の円卓には魔王候補のメルとバトラ、そして四天王が座る。


 オルファ達はまた用意された別の席に座り、選挙の様子を見守る。


「ではこれより選挙を開始する、進行役はこの四天王筆頭、ラムダが務めまする」


 ラムダは円卓を周り、専用の羊皮紙をレオン、イーナに手渡して、最後にタウへ渡すが、その時こっそりと耳打ちをして、タウの暗い表情が驚きに変わる。


 魔王候補のメルトバトラは二人とも満面の笑みを浮かべる。


 メルの笑顔は自分が勝つと分かってのものだが、バトラのは自身の勝利とともに、能天気に笑う姉を見て『俺が勝つのに何笑ってんだか』という嘲笑の意味も含んでいるだろう。


 やがて四天王が全員記入を終え、魔王様の玉座の前に置かれた投票箱へ羊皮紙を入れていく。


「各々がた、投票は終わりましたな? それではこれより開票を行います!」


 投票箱から四枚の羊皮紙を取り出し、皆には見えないよう、一枚一枚広げて記入された名を確認して、ラムダは羊皮紙の束を手に一度目を閉じてから息を吐きだした。


「では発表致します! 南の魔族の国、サウザン王国次期魔王は!」



「満場一致でメル王女に決まりました!」



『いよっしゃぁあああああああああああああ!!!』


 オルファ達が、レオン達が一斉に立ち上がり歓喜の叫び声を上げた。


 その中で一人、バトラだけが状況を理解できずポカンと口を開けて、しばらくしてからようやく正気を取り戻す。


「ちょちょちょ、ちょっと待てよ! なんで姉貴が魔王なんだよ! お前ら全員俺に入れるんじゃなかったのかよ!?」


 円卓を叩き、立ち上がるバトラにタウはキュッと唇を結んで言い放つ。


「わたしは、教育者の立場から戦争には断固反対です!」


 続いてレオンが、

「私は今は亡き恋人、アリシアの意志を継ぎ、魔族と人間の共存を望みます」


 イーナは、

「えーっと、戦争するとお金かかりますし、それよりも人間とは貿易をしたほうがより安全に儲けられますので」


 さすが財務大臣、すばらしい言い訳である。


「ていうか満場一致ってラムダ! てめぇまで俺を裏切ったのか!?」

「勘違いしてもらっては困ります」


 胸ぐらにつかみかかるバトラの手を払い、ラムダは王子を見下ろす。


「私が望むのはあくまで魔族の繁栄、ですが貴方のような暗君では魔族の繁栄は成りません!」

「何言ってやがる、邪神の力があれば大陸を支配」

「貴方が目指すのは自分の帝国であり魔族の帝国ではありません! 貴方は王の器ではない! それだけです!」

「な、あぁ……」


 イスに力無く座り込むバトラ、対照的にメルは驚いた表情だったが、すぐに優しく微笑む。


「ありがとう、ラムダ♪」



「オルファ、これでついに我らの願いが叶うな」

「そうだよオルファくんこれで」


 レアとアルムに左右から抱き突かれて、オルファも二人を抱きしめ返す。


「そうだな、これで盟約は完成する、これで」



「俺達の完全勝利だ!!」



 こうしてこの日、メル・サウザンは名実ともに南の魔王となった。

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