第35話 勇者パーティーの襲撃

「みんな家に隠れて絶対に外に出ないでー!」


 姫であるメル自ら城下で民衆に呼び掛け、避難勧告を出す。


 当然城の兵士達も呼びかけているし、街のいたる場所に兵が配置されて勇者を捜索する。


「メル、こっちに勇者はいない」

「こっちにもいなかったよ」


 魔族の中でも飛び抜けた身体能力を誇る魔王の力でオルファ達は街中を跳び回ったが、これと言った手掛かりは得られなかった。


「わかった、えーっと、最初に兵士が交戦した場所と時間を考えると……」

「しかしこの時期に勇者とはな」


 最後に戻ってきたレアの発言に、地図に捜査結果などのデータを書き込みながらメルは溜息をつく。


「パパを殺した連中も結構な重傷だったと思うんだけど、そうだよねぇ、さすがにもう完治しちゃってるよねぇ」

「目的は、バトラ王子かお主、それか四天王達であろうな、魔族の国を滅ぼすには王族全てと四天王を殺さなくてはならないと以前戦った勇者が言っていた」


 レアの言葉にオルファが舌打つ。


「ったく、どんな完璧主義者だよ」

「そんな、なんで、なんで勇者さん達待ってくれないの……三日後の選挙で全部まるく収まるのに……」


 アルムは落ち込むが仕方ない。


 オルファが人間達と結んだ盟約は邪神が復活しなかったら侵攻戦をしないというもので、それまでの間、人間の侵攻戦を止める拘束力は無い。


 当然、オルファは封印のし直しをするために他の三魔王を説得するからその間は侵攻をやめ、魔族が人間へ反発心を持たないようにするよう要請したが、自分達が攻撃の手を緩めた隙に何かする気だろうと跳ね付けられてしまった。


 その時、城のほうから一発の狼煙が上がった。


 赤いその煙が指す意味は緊急事態発生、つまり、勇者が城に現れたのだ。


「やっぱ狙いはボクかバトラか!」


 おおかた以前倒した魔王の落とし種を殺し、完全に魔王の芽を摘む気なのだろう。


 四人は魔王の身体能力で疾走。


 今まで立っていた場所は軽く抉れていた。





 城の庭園に到着すると、そこには勇者達四人と一人で戦うレオンの姿があった。


「メル様!? 何故ここに!?」


 レオンは重傷こそ負っていないが、体のあちこちに切り傷や火傷を負い、軍服もボロボロだ。


「さっき赤い狼煙が上がってそれで」

「くっ、あいつら余計な事を、これではメル様が危険ではないか……メル様、ここはお逃げください!」


 だがそんな事を許すような勇者はいない。


 剣と盾を持ったマントの男が素早く気づく。


「メル様? 四天王と名乗ったこいつが様を付けるということは、貴様が魔王の娘だな?」


 ロングソードを両手で構える男が言う。


「四天王ともどもぶっ殺してやる!」


 ローブに身を包み、魔法の杖を持った男が続く。


「ふふふ、他には親衛隊が三人ですか、相手に取って不足はありません」


 最後に僧衣姿の男が締める。


「さあ悪しき魔族共よ、聖なる神の力の前にひれ伏すがいい!」


 僧侶とはどいつもこいつもこんな感じなのだろうかと、オルファは顔をしかめた。


「レオン、こいつらは俺らが相手するからお前は他のみんなを頼む」

「で、ですが」


 オルファの全身から殺気と魔力が溢れだす。


「俺の力、信用できないか?」


 オルファの迫力にレオンは息を飲み、勇者達に剣を向け、警戒しながら下がる。


「四天王を下げるか、だがその判断が命取りだぞ、勇者の力を見せてやる」

「オレの剣術もな!」

「そしてワタシの攻撃魔法も」

「神のご加護をとくと見るがいい!」


「「「「俺達のチームワークの力を見せてやる!!!!」」」」


「うるせーよ」


 反射的に、オルファは一番ウザかった僧侶の顔面を殴っていた。


 同じようにメルは勇者の、レアは剣士の、アルムは三人に釣られて魔法使いを殴り飛ばしていた。


 四人が吹っ飛び、庭園の壁にめり込んだ。

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