第32話 東の魔王VS北の魔王 決着
「衝撃、来ます!!」
地上ではレアの部下達が天に最大級の防御結界を張り、二人の最後の一撃から伝わる衝撃波を防ぐ。
極寒のノーザンド王国の草原を、アルムは泣きそうな顔で光がやんだ空を見上げる。
そして、微弱だが慣れ親しんだ彼の魔力を感知して顔がほころぶ。
「オルファくん!」
「みんな、レア様が落ちて来るぞ!」
「海の方だ! 救助に向かえ!」
レアの部下達が慌ただしく走る中、アルムも涙を拭きながら走った。
全ての力を使い果たし、元の姿に戻って宇宙から自由落下に任せて凍る海の氷塊を貫通した二人だが、レアは意識を失う事なくオルファを抱きかかえて浮上。
氷に上がって息をついた。
二本の足で立ち上がるレアと違い、仰向けに倒れ呼吸の弱いオルファにレアも息を切らしながら尋ねる。
「貴様、何故手を抜いた?」
「…………」
「あの時、貴様の剣には千分の一秒減速した時間があった。最期まで全力で振り抜いていれば貴様の勝ちだったろう?」
その問いに、オルファは弱々しい声でなんとか答える。
「当たれば……大怪我じゃ済まないからな」
「我の身を案じたと?」
「……いや……ただうちには魔族でも人間でも誰かが怪我すると悲しい顔する奴がいるからよ……条件は俺の力を認めさせることでお前を殺す事じゃないだろ…………」
アルムの事を思い出して、レアは問う。
「オルファ・イスタンス、貴様が魔族と人間の共存を望む理由を教えろ」
「……アルムが泣いたんだよ」
それは、オルファの人生を変えた出来事だった。
「昔、小さい時にアルムが泣いた。どうして魔族と人間が殺し合うんだろうって、なんで戦争なんてあるんだろうって。
俺にも、アルムの言っている事はわかった。さっきお前に言った言葉も前言われて、確かにそうだと思った。
でもそれが一番の理由じゃない、俺はアルムが泣いているのが嫌なんだ、アルムには笑っていて欲しいんだ。
アルムには、笑顔が一番似合うんだ」
祖父同士が友達だった為、二人は何度もお互いの城へ行き、幼い頃からいつも一緒だった。
片方の城に何日も滞在する事も珍しくは無かった。
その中でオルファは思った。
この小さくて可愛い女の子とずっと一緒にいたいと。
幼い頃から側にいるのが当たり前でオルファはそれが恋心だとは気づいていないが、心の底からそう思ったのだ。
恋愛小説や舞台演劇にあるようなドラマチックな出会いもメロドラマもない、ただ普通に祖父母や親同士が友達で紹介されて、毎日一緒に遊んで同じ時間を共有して、自然と、だんだん惹かれていって気が付いたら世界で一番大切な人になっていただけ。
けれど、衝撃的な事件による一時的な感情の盛り上がりではなく、小さな日常の中で積み重ねられ、少しずつ成長した想いは何モノにも負けない鋼の意志となりオルファを突き動かした。
「あいつのじいちゃんさ、ガキの頃勇者に殺されたんだぜ、酷い殺され方でさ、一〇〇年以上経った今でもまだ復活できないんだ。
じいちゃんが死んだ時、あいつがどんだけ泣いたと思う? あいつがどれだけじいちゃんの事好きだったと思う?
なのにあいつは人間の心配ができるんだぞ?
もちろんじいちゃんの事は恨んでいませんなんていう気持ち悪い聖人君子様じゃねえさ、最初はすっごい人間を恨んでた。
でもあいつのお母さんが言ったんだよ。
人間は怖いだけなんだって、人間は弱くてすぐ死んじゃうから、だから自分達魔族の事が怖くて仕方なくって、それで酷い事をしてくるけど、仕返しをしたらみんながみんないつまでも憎み合う世界になっちゃうって、だから強い魔族が許してあげる広い心でこの憎しみが一日でも早く終わるよう耐えなきゃ駄目なんだって」
必死に紡ぐオルファの言葉に、レアは聞きいり、次の言葉を待っているようだった。
「それであいつ涙拭きながら『じゃあわたし人間許す』って叫んでた。
んで今じゃ真剣に魔族と人間が共存できる世界を夢見てる……なんでそんな奴が泣かなきゃいけねぇ、そんな理不尽まかり通っていいはずがねえ」
倒れたまま拳を震わせ、オルファの言葉に力が満ちてくる。
「だから俺はあいつの夢を叶える!
あいつが泣かなくて済むなら、あいつが笑顔になれるなら俺は世界中から嫌われてもいいし死んでもいい!」
大好きなアルムが悲しい顔をすると胸が締めつけられた。
本当に、どんな事をしてでもこの小さくて可愛い女の子笑顔だけは絶対に守りたいと思った。
それがオルファの、男としての願いだった。
「……笑顔になって欲しい、それだけの理由で貴様は命をかけるのか?」
「男が命賭ける理由なんてそれだけで充分だ!」
断言するオルファの返答に、レアは静かに恋をした。
なんという勇ましい男だろう。
女の笑顔の為にここまで戦い、それでなお愛する者を悲しませないよう敵に情けをかける。
オルファは今までレアが見て来たどんな男よりも強く、清廉で、そして最高にカッコよかった。
そして一人の男をここまで駆り立てるアルム。
武王の名を欲しいままにする自分が殺気を飛ばしたにも関わらず敢然と立ち向かい、自分の気持ちを真っ直ぐに言い放つ胆力。
ただ可愛いだけでは無いその魅力はレアの心に深く染みわたる。
気づけば、レアはこの二人の事をたまらなく愛していた。
そして口元は自然と緩んでいた。
「いいだろうオルファ、貴様らの計画に全面協力しよう」
「いいのか?」
「ああ、貴様がアルムの為に戦うと言うなら、我はアルムと貴様の為に戦おう」
北の魔王はこうして東の魔王の前についに折れた。
「我が力、存分に使うがいい」
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