第30話 東の魔王VS北の魔王 開幕
永久凍土に覆われた極北の地、ノーザンド王国にオルファとアルムはいた。
魔王城謁見の間(ま)で、遥か高い玉座よりレアに見降ろされ、左右に太い柱と護衛兵をズラリと並べた長い赤絨毯に、オルファとアルムはヒザをついた。
同じ魔王とは言えこちらは懇願する身であり、相手は年齢自体はそう変わらないが、新参者のオルファ達と違い、数十年前から魔王の座につきキャリアはオルファ達の数倍もある。
頭こそ下げないが、下手に出るのは当然の礼儀と言える。
「貴様らの話は解った」
冷たく、こちらの心まで凍りそうな声だった。
「じゃあ」
「だが協力はできん」
「な、なんでだ、レアさんは人間との戦争が目的なのか!?」
「そういう訳ではないが、だが一方的に侵攻して来ているのは人間達の方であろう?
そもそも存在自体が悪など侮辱するにも程がある。
自分達の宗教に賛同しないだけで、種族が違うだけで虐殺を繰り返す連中に手心を加える義理はない。
攻め込んで来た人間達は皆殺しだ……これ以上続けるようなら周辺諸国を平らげる計画も変わらん、塔の封印のかけ直しは手配してやるが、それ以上貴様らに協力してやるつもりはない」
どこまでも冷厳な態度の氷の女王に、オルファは喰ってかかる。
「だけど、そんな事をすればレアさんの国にだって被害が出るはずだ! 確かに人間は一人一人は弱いかもしれない、でも数は俺らの一〇倍以上だし勇者みたく時々魔族以上に強い存在もいる。
断言する。戦争をすれば絶対魔族が勝つ、けれどそれまでには数え切れない程の魔族が死ぬ事になるんだ!」
「放っておけばどのみち多くの死者が出るであろう、我が王位についてから九〇年、人間共の侵攻もそれほど酷くはなかったが、邪神復活の噂が流れてから侵攻戦は日に日に酷くなる一方、もはや許しておける範疇を越えている。
最初は弱き人間共など降りかかる火の粉を払う程度に思っていたが、火の粉もあまり続けば元の火である焚火を消したくなるだろう?」
「それじゃあ一生争いは終わりません!」
ずっと黙していたアルムが立ち上がり、レアと対峙していた。
「お、おいアルム」
レアはオルファしか喋らない事から、てっきりアルムは付き添いのようなものだと思っていた。
だが、その目には確かな意志が込められている。
「ほお、この我に意見をするか小娘?」
魔王の纏う覇気に護衛兵達がざわめき、守るべき女王から一歩下がり明らかに怯えている。
その威圧感には、さしものオルファですら息を飲んだが……
「目には目をでは世界が盲目になるだけです!!」
その叫びに、レアの圧力感が消えた。
「やったらやり返す! 向こうが攻めて来るからこっちも攻める! そんな考えだから戦争が終わらないんです! どこかで戦いの連鎖は終わらせなくちゃダメなんです! ならそれはわたし達魔族の役目です!」
「何故我らが耐えねばならん?」
「それはわたし達が強いからです! 魔族の中には強い魔族こそが大陸を統べるのに相応しいとか、人間の上に立つ存在だって言うヒトがいます。
ですが本当に魔族が強いなら、人間よりも優れる種族だと言うのなら、大陸に住む全てのヒト族を救うために魔族がその役目を背負うべきなんです」
「……強いから背負う、か」
さらにアルムは告げる。
「強いとは許せるという事、弱いヒトは他人を許してあげられない、わたしの祖父がそう言っていました!!」
その言葉には、誰も反論できなかった。
レアですら何も言わず、黙って目を閉じ、やがてその目を開いた。
「娘、今一度名前を聞かせろ」
「西の魔王、アルム・ウェスターです!」
その強い眼差し、説得の為の演技ではなく、真に迫る真っ直ぐな言葉にレアはもう一度オルファとアルムを見分し、スッと立ち上がった。
「よかろう、だが我は武王レア、そこまで言うなら貴様らの覚悟というモノを見せてもらうぞ」
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