第28話 2票目ゲット

 太陽が夕日に変わる頃、レオンは封印の塔近くの草むらに倒れていた。


 目を覚ますと胸の傷は完治とはいかないが、命に別条が無いレベルまでは治っている。


 すぐ横にはオルファが座り込み、霧越しに漏れる夕焼けを眺めていた。


「……私を殺さなかったのですか?」


 感情を全て吐き出し切ったレオンは、とりあえず今は冷静な状態に戻ったらしい。


 だがそれは一時的な物、ただ暴れて怒りが収まっただけで人間への憎しみがなくなったのとは別だ。


「お前にはこっちについてもらわないといけないからな」

「やはりそれが目的ですか、ですが勝負に負けたとか、傷を直して貰った程度で私が心変わりするとお思いですか?」

「思ってないよ、だからさ、人間を嫌いなまま俺らに協力してくれないか?」


 意味不明の言葉に、レオンは疑問符を浮かべる。


 人間を嫌いなまま穏健派にとは、まるで矛盾している。


 それとも魔王三人の戦力を使い強制的に屈服させようというのか?


 けれどオルファは穏やかな顔で言った。


「いや、正直さ、俺最初お前のこと説得しようと思ってたんだよ、でもさ、ヒトの感情って理屈じゃないし、お前の方が正しいよ。

 どれだけ間違った行動だろうと、死んだ彼女が嫌がりそうな事でも、大切なヒトを奪った存在を好きになれるわけが無い。

 逆に愛せる奴がいたらそいつは間違ってないけど、ヒトとして何かがズレていると思う」


 急に自分を弁護する言い方にレオンは何も言えず、黙って聞く。


 一体この男は何が狙いなのか、レオンの疑問は深まるばかりだ。


「だからさ、人間を嫌いなまま、アリシアさんの為に彼女の意志を受け継いでくれよ」

「! ど、どういう意味ですか?」


「そのままだよ、お前はさ、大切なヒトを人間に奪われているんだ。だからお前自身は人間を好きにならなくていい、人間を嫌いなままでいい、だから人間を守りたいから戦争を止めるんじゃなくて、、アリシアさんが人間との共存を望んだから戦争を止めるんだ。

 自分の為じゃなくて、あくまでアリシアさんの為にやるんだよ」


「……しかしアリシアはもう」

「それに俺も別に人間好きなわけじゃないし」

「なっ!? ぐっ!」


 爆弾発言に起き上がろうとして、胸の痛みに声が漏れる。


「で、ではメル様同様国民の為にこの争いを終わらせようと?」

「まぁそれも無いわけじゃないけどよ、さっき言ったろ、どうしても叶えてやりたい夢があるって」

「はい」

「あれはそういう意味だよ、人間と魔族が争わない世界、それは俺の夢じゃない、あいつの、アルムの夢なんだ」

「アルム……西の魔王様ですか?」

「ああ、だからさ、お前も俺と同じ事して欲しいんだよ、自分の夢じゃなくて、アリシアさんの夢を守るために、さ」


 オルファの言葉にレオンはハッとし、ゆっくりと夕日へ視線を投げた。


「……アリシアの……ため」



 この日、オルファはヒトの価値観を変えずに仲間へ引き込む事に成功した。



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