第25話 魔王VS四天王 激闘


「……どういう事だ?」


 オルファは受け取った剣を抜き構える。


「お許しくださいラムダ様、いかにこの国の障害になるとはいえ、高潔な魔王様の暗殺はできませんでした」


 この場にはいないラムダに謝罪し、レオンは全身に魔力を充溢させる。


「いざ……尋常に勝負です……」

「その勝負乗った!」


 如何にラムダに忠誠を誓おうと、レオンが憎むのはあくまで人間、そして彼もまた高潔な騎士だった。


 一度は敢行した魔王殺しだったが、対等な勝負でないと自分を許し切れなかったのだろう。


 向き合うその目は暗殺者では無く騎士のソレだ。


「塔を壊すわけにはいかないからな」


 塔から離れるように大きく跳躍し、樹海を背にしてオルファは誘う。


「さぁ来いよ王国最強、剣術勝負といこうぜ!」

「参る!」


 レアにそうしたように、レオンは一瞬で距離を縮めて斬りかかる。


 ただ、試合ではなく、愛剣を使った殺し合いともなればその威力は昨日の比ではない。


 王国最強の剣が容赦なく頸動脈を狙う。


 魔王と四天王の激突は清廉にして苛烈、互いに小細工無しの真っ向からの剣術勝負だった。


 魔術に長ける魔族同士でありながら己が肉体のみを駆使し、愛剣に絶対の信頼と覚悟を乗せて魔剣と魔剣が喰らい合う。


 音速の数倍に値する超音速の嵐がせめぎ合い、二人が空白地帯から森林地帯に移った途端周囲の木々が一瞬にして薙ぎ倒されて空白地帯が拡張される。


 人外の身体能力の前には大樹など紙切れ同然に木端微塵にされ、二人を中心に木片の竜巻が噴き上がる。


 二人のあまりの闘気と殺気に、仮にこの場に一般人がいたならば一瞬でショック死、精神が無事でも一秒と持たずミンチにされるだろう。


「やっぱり俺が邪魔かレオン!」


 オルファと違いレオンは冷静に答える。


「当たり前です。邪神復活は邪魔させません、その為にはバトラ様に魔王になっていただかなくては困ります」


 魔剣は大木に当たっても引っ掛かりもせず、減速する事なく空気を斬るように優美華美を以って踊る刃はさらにその激しさを増して、衝撃波だけで周囲の樹木が片っ端から吹き飛んだ。


 互いに魔力で身体を強化し続け、どこまでも二人の速度は上がり続ける。


 だがそれでも有利なのはレオンだった。


「なんで邪神復活にこだわるんだよ!」

「人間を滅ぼす為です。あの地上にはびこる愚者達は度し難い」


 静かな口調とは裏腹に、剣に本物の殺意を乗せたレオンはオルファの剣技をみるみる見抜き、覚え、オルファは防御で手いっぱいになっていく。


 単純な強さならオルファのほうが上だが、戦いをレオンの土俵である剣術勝負にしてしまったのが悪かった。


 レオンの刃がオルファの服をかすめるようになり、肉をかすめるようになり、オルファの服が血に染まっていく。


「愚かな奴は殺しちまえってか? そんな暴君政治は俺がぶっ潰す!」

「あのような者達を気遣うメル様、そしてメル様に与する貴方の政治こそが大陸を不幸にするのです」


 元からオルファは魔術と剣術を併用して戦うバランス型の魔王だ。


 確かに魔王としての圧倒的な身体能力を絶大な魔力で強化してはいるが、レオンは巧過ぎた。


 剣に生きるレオンの魔剣は最小限の動きでオルファの剣を捉え、巧みに力の向きを逸らして攻撃を避けつつオルファを斬りつけていく。


 規格外の筋力と瞬発力で勝負を拮抗させてきたオルファだが、レオンがオルファの剣を学習してしまった今、身体能力だけで戦いを持たせる事が難しくなる。


「つまりお前の恋人は大陸を不幸にすると?」

「ッ………、タウから聞いたのですね……」


 言葉に、どろりとした熱を帯びたレオンの剣がオルファの胸板を斬りつける。


 広域重力呪文でレオンを大地に縫い付ければレオンの首を切り落とすのは容易い。


 魔術を使えば、二人の戦闘力は明白だ。


 まして、第二形態、そして第三形態たる最終形態になれば、レオン如き瞬殺だ。


 レオンもきっとそれは分かっているだろう。


 だから黙って不利になるオルファを怪しんでいるかもしれないし『剣術勝負といこうぜ!』と言うオルファ自身の言葉を信じ、騎士道精神溢れる魔王だと勘違いしてくれているのかもしれない。


 だが説明しよう。


 全てはオルファの仕込みである。


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