第22話 2票目をゲットしたい


 アルムの意見にオルファの視線が止まる。


「どういう事だ?」

「だってラムダさんと違ってレオンさんは人間をヒト扱いしてるでしょ?」


 鬼畜外道扱いしている事がどうしてヒト扱いする事になるのか、アルム以外の誰も分からなかったが、レアが得心がいったように口を緩めるとアルムは説明を始める。


「確かに二人とも人間を批判してるけどラムダさんは『サル』『害獣』『ヒトではない』『家畜にも劣る虫』っていうふうにヒト族じゃない、完全に動物や虫と同列の存在に見ているよね?」


 その見解には誰もが納得する。


「けどレオンさんは『鬼畜外道』『クズ』『頭の狂った連中』って言ってるけど、例えば猛獣やモンスターに対してこんな言葉使わないよね?」

『あ……』


 全員気づいた。


 悪口は確かにヒトを卑下する行為だが、逆に悪口を言うのはヒトとして見ている証拠なのだ。


 猛獣に襲われても『くそ、いきなり襲い掛かるなんて酷い野郎だ』とか、餌におびき寄せられて罠にかかった虫を見て『こんな罠にかかって愚かだなぁ』などとヒトは言わない。


 これはヒトに取って動物や虫が本当の意味で眼中に無いからだ。


 つまり、同じ人間嫌いでも、ラムダとレオンには明確な差があり、人間を自分と同じヒト族と認め、ただ素行が悪く頭が悪いと言っているだけのレオンのほうがまだ説得しやすいだろう。


「そうだねぇ、うちのラムダは見たまんま魔族絶対至上主義者だけどレオンは根は忠誠心溢れる高潔な騎士だし、はっきり言って人間嫌いってとこ除けば全然付き合いやすいし、こっちの話も聞いてくれやすいと思うよ」


「……わかった、じゃあメルを疑うわけじゃないけど、ちょっとレアにはやってもらいたい事がある」


「我か?」

「ああ、それと確認するけどメル、レオンはラムダの肩腕のような存在って言ってたけどそれはレオンはラムダに絶対服従って事か?」

「基本絶対だね、上下関係を大事にする性格だから四天王筆頭のラムダには前から付き従っていたけど、一〇〇年くらい前から魔族至上主義のラムダを支持するようになったと思う」

「あっ、それ聞いた事あります」

「タウ、なんか知ってるのか?」

「はい、えっと、確か人間に恋人を殺されたって」


 全員の表情が曇る。


「レオンさんの恋人って魔族と人間が仲良くなるのが夢で、自分達が何もしなければいつか人間達も自分達が無害な存在だと分かってくれるはずだって、だからどんなに攻め込まれても憎む気持ちを持ってはいけませんて、みんなに呼び掛けてたそうなんですけど……」


 そこからは、タウ自身の顔がさらに暗くなり、言葉を切ってから辛そうに語る。


「その恋人が、魔族領に迷い込んだ人間の子供をその子の村まで送り届けたら……その村の人達に殺されたんです」


 その話には、メルですら思わず拳を握ってしまう。


「魔族っていう理由だけでレオンさんの恋人は殺されて、国境を越えて来たんだからきっと攻め込むつもりだったんだとか人間達は言ってたそうです。

 たしかに彼女は勝手に国境を越えて人間領に入りましたけど、でもその子の村は国境付近にあって、国境を本当にちょっと越えただけだし、それにその迷子の子だって国境を越えちゃってるのに、その子を故郷に返してあげたのに殺すなんて酷いと思います。

 これ以上の事は知りませんけど、でもそれ以来レオンさんは極度の人間嫌いになって、戦場でも率先して人間を殺すようになったそうです」


 あまりにも酷過ぎる悲劇、一度はレオン攻略に傾いた一同だったが、そんな事情があっては逆に一番無理だろうと諦める。


 しかし、オルファだけはしばらく思案して、頭の中で最後のピースを完成させた。


「やっぱりレオンの方が可能性があるな、レア、レオンと戦ってくれ」


 オルファはレアに作戦を伝えた。


「レア、お前のとこに行った時言ってたよな、自分は一流の戦士だって、刃を交えれば相手の事は分かるって」


 レアが不敵に笑い、目を細める。


「ああ、任せるがいい」

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