第13話 人間軍が弱すぎる? いいえ魔王が強すぎるんです


「何自滅してんだよ!」


 慌ててオルファは呪文を解くが兵士達は死屍累々、もがき苦しむ兵士はいるが多くが死んでしまっている。


 文句こそ言わないが、アルムが唇を薄く噛んでいるのを見て、オルファは少し胸が痛んだ。


 やはり、アルムの顔が暗いのは嫌だ。


 それでも、アルムを笑顔にするためには、魔族と人間が手を結ぶには今、一時だけは耐えねばならない。


 物語の勇者は『犠牲の果てに成り立つ平和に意味は無い!』と言うけれど、ここはフィクションではなくノンフィクション、現実の世界ではそうはいかない。


 平和を勝ち取る為の戦争、その為の犠牲、これは仕方の無い事で、本当に犠牲がゼロの過程で平和な世界という結果が欲しいというのは子供のわがままだ。


 そこまで解っていても割り切れず、人を殺してからもやもやとしてしまうのがオルファだが、それを承知するレアが進み出る。


「嫁の悲しい顔は見たくない、業(ごう)は我が背負うてやろう」


 レアが駆けた。

 全力疾走だ。


 だが魔王の全力疾走はただの疾走ではない。


 音速を越えて、全身に衝撃波を纏(まと)い、走った後が根こそぎ耕され、触れる重装歩兵や騎兵、戦車が宙を飛びながら砕けた鎧を撒(ま)き散らす。


 騎馬や戦車を引く馬がいななき宙で足をばたつかせている。


 レアは戦場を縦横無尽に走り回り、バルトリア軍が悲鳴を上げながら混乱の極みになったところで戻ってきて一言。


「ランニング終了、だが汗ひとつかけないな」


 ビシッとキメ顔でウィンクした。


 そんなレアの顔にオルファとアルムは思わず顔が緩んでしまう。


 やはりレアには人を元気づける不思議な魅力がある。


「ええい悪しき魔王の手先め! だが我ら聖なる神に仕えるバルトリア軍の最強究極の秘密兵器で目に物見せてくれるわ!!」


 将軍らしき人物が叫ぶと、部下に何か命令をしている。


 敵軍が左右に開いて、奥からは馬一〇頭立てで、通常の一〇倍以上もある巨大な荷車がゴロゴロと音を立てながら突き進み、やがてその上に乗っていたモノが地面に立ち上がった。


 積み荷は見上げるようなゴーレム。


 身長はおそらく一〇メートルはあるであろうフルプレートの甲冑が仁王立ちしている。


「どうだ魔族共! これはな、貴様らを倒すために国が傾きかけるほどの予算を投入し作り上げた軍事用ゴーレムでなんと全身をミスリルの装甲で覆っているのだ!! どうだ驚いただろ!?」


 伝説の金属ミスリル。


 神の金属オリハルコンという例外を除けば世界最強の金属であり、ミスリル製の武器や防具を持つ事は一部の高名な騎士でも難しく、現在ではドワーフ族との取引でしか手に入らない高価過ぎる品だ。


 伝説なのに普通に買えてしまう、なんともお得な伝説だが、ドワーフ族が今より人間を警戒していてミスリルを売ってくれなかった古代においては伝説だったのだろう。


 装甲の厚さは知らないが、確かに一〇メートルの巨人の体表を覆えるほどのミスリルを買えば国が傾くほどお金もかかるだろう。


 だが、悲しきかな……相手は魔王×3


「っで、縛りどうする?」

「我は魔力を使わん」

「じゃ、じゃあわたし最下級呪文しか使わない」

「なら俺は剣使わないって事で」


 オルファは腰に剣を挿しているがその封印を約束する。


 三人で顔を突き合わせて、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の魔王様達である。


「こらー! 貴様ら何を話しとるかぁー!」


 子供っぽく怒る人間の将軍、よほどのお坊ちゃん育ちとオルファは見た。


「ではまず我から行こう、このレア・ノーザン、武芸十八般右に出る者無し!

 魔力に頼らず剣一本槍一本あれば敵は無い!!」


 レアの背後の空間がスパーク、突如一本の槍の柄が空間から飛びだし、レアがつかみ引き抜くとそのまま巨大な先端までを含めた全身が空気に晒される。


 レアはありとあらゆる武装を異空間に置き、好きな時に出せるらしい。


 白銀の、神々しささえ感じる勇壮な槍を両手で構え、レアはゴーレムに向かって疾駆する。


「ぬはははは! 馬鹿目ぇ、この最新式ゴーレム相手に槍一本で立ち向かうとは、魔族の脳味噌は余程小さいと」



 バギンッ!

 飛び上がり、三メートル程の槍でゴーレムの左肩を一突き。


 それだけでミスリル装甲のゴーレムの肩は貫通され、左腕が地面へと落下した。


「なぁ~~ッッ!?」

 これ以上ないほどまぬけな顔で驚く将軍の前で、レアはたった一撃入れただけで退く。

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