第10話 どうしてもメルを南の魔王にしたい
「な!?」
あまりの驚きで、メルは思わず立ち上がりそうになる。
「まずは長年我らに攻め込んできたバルトリア王国を滅ぼし、さらにバルトリア王国に援助していた国も同様に滅ぼしましょう。
バルトリア王国が長年に渡って我が国と戦争できたのもそもそも周辺諸国からの援助あっての物ですからな」
「バルトリア国領土がサウザン国の物になり、土地と資源を手に入れられれば今までの戦費分の穴を埋めるには十分、そうすれば今まで浪費した戦費と人員も無駄になりませんわね」
「けどそれじゃあただの侵攻戦、人間を非難しておきながらやっている事は同じじゃないか!」
「恐れなら姫様」
冷静だが良く通るレオンの声に場が鎮まる。
「我らは一方的に責められる被害者、悪の人間共を滅ぼす事になんの悪意がありましょう、重ねて申し上げますが正義は我らにあるのです」
「だ、だけど……」
ラムダが畳み掛ける。
「そもそもこの素晴らしきファルガスの土地のほとんどを奴ら人間が占拠しているのが間違いなのです。
連中の土地と資源があれば我が国がどれほど富み、どれほどの魔族の暮らしが豊かになると思っているのですか?
すぐにも奴らの国に攻め入り領土を奪うべきです!」
「けど人間の土地は人間の物! どれだけ攻められようがこちらも攻めて良い正当な理由にはなりえない!」
最初に見せた明るく軽い雰囲気とはうって変わって、メルは強気に出る。
以外な一面にオルファ達はメルの姫たる自覚を感じる。
「おい姉貴、なにか勘違いしてねえか?」
弟の言葉にメルは口をつぐんで言葉を聞く。
「そもそも人間なんてサルの仲間だろ? 欲しい土地に害獣がいたら駆除してそこに街作るじゃねえか、だったらこれも同じだと思えばいいだろ」
「サルって」
「体は弱い魔力も弱い、しかも一〇〇年もしないで死んじまうんだぜ、あいつら本当にオレらと同じヒトか?
エルフとかドワーフの土地って言うならオレも奪おうなんて思わねーよ、なぁそうだろみんな?」
タウ以外の四天王達もうんうん、と頷き、ラムダが補足する。
「エルフの英知、ドワーフの金属加工技術、どちらの種族も学ぶべきところが多く、是非とも懇意にしたいものです。だが人間はただ数が多いだけで自分達が一番偉いと思っている馬鹿の集まりです」
「バルトリア王国には金山と銀山があったわね、貴金属の少ないこの国の大臣としては是非とも欲しいわ」
イーナが目を細めて笑う。
メルの話だと財務大臣のイーナはお金と贅沢に目が無いらしい。
だが、お金が好き過ぎてお金の勉強をしているうちに財務大臣の地位まで上り詰めたのだから大したものだ。
「それに」
と置いてラムダの顔が怪しく歪む。
「邪神様が復活するまでの僅かな時でもゴミ共を勢い付かせるのも癪(しゃく)ですし、国民の反人間感情を煽(あお)るのにも良いでしょう?」
「アンタら!」
反応したのはメルだけではない、オルファ達も邪神の名に表情が一瞬反応してしまう。
だがメルの言葉はバトラに切られる。
「じゃあ決を取るぜ、話が逸れちまったが、侵攻して来た人間共はこれまで通り可能な限り皆殺し、賛成の者は?」
バトラの言葉に、バトラを含め、ラムダ、レオン、イーナの手が上がり、慌ててタウも上げる。
「ほい決定、じゃあ次回はバルトリア王国への侵攻戦について話すとするか、じゃあ姉貴、次回までにせいぜい素晴らしい言い分考えて来てくれよ?」
無理だろうけど、と付け加えて、バトラは大笑しながら席を立ち、それに合わせて四天王達も立ち上がり、メルを無視ししてバトラに続き大会議室を出て行った。
これではまるで王候補に過ぎないバトラが真の王みたいではないか、いや、事実四天王はそう扱っているのだ。
一人円卓に残ったメルは視線を落とし、息を吐きだした。
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