第9話 メルを魔王にしないと人間と戦争になる
護衛の兵が壁際にずらりと並ぶ大会議室は、たった六人の魔族が会議をするには過剰な広さがあり、その中央に円卓が用意されている。
最大一三人まで座れる円卓の席は当然ガラガラで、六人しか座っていない。
魔王が座るであろう宝石が散りばめられた一際立派な玉座には誰も座らず、その左右の席にお姫様であるメルと、王子のバトラが座る。
そしてバトラから一つ飛ばしに四天王達が座り、メルと四天王の間には席が二つ空いている。
「では、本日も人間共の対応について話し合いましょう」
口火を切ったのは四天王筆頭、防衛大臣を務めるラムダだ。
この中では一番の年長者で初老の男性だ。
立派な口ヒゲを蓄えており、全身から自信に満ち溢れている。
「レオン、今週の状況は?」
ラムダの指示で、若い成人男性が資料などは読まずに諳(そら)んじる。
「国境付近ではバルトリア王国の侵攻軍が常に駐留し、日に一度のペースで攻め込んでおります。
今週の被害は負傷者一二五名、死者六名、敵方は死者六五〇〇名」
彼の名はレオン、四天王の一人でウェスター王国一の騎士でありラムダの右腕、そして環境大臣を務め、本来の仕事は農林や交通関係、そして都市開発である。
美しい顔立ちだが冷たい感じのする眼差しで口調も機械的で、無駄な事は一切喋らない。
それに続いて、黒髪の美女が資料を読み上げる。
「加えて兵士達への遠征手当や消耗した装備などの戦費はこの一週間分で合わせて一等金貨三〇〇〇枚、毎週一等金貨三〇〇〇枚、二等金貨なら一五〇〇〇枚分の出費が余分にかかるのは困りますねぇ、それに兵士が死ねば慰霊金を家族に出さなくてはなりませんし、この戦争で新たな土地や資源が手に入るならともかく、ただの防衛戦では不経済この上ないですわ」
彼女の名はイーナ、国一番の美女と評判でルックスはレアと似ているが印象は正反対だ。
背が高く、細い腕や首筋、ウエストとは相反する豊かなバストとヒップをもったメリハリのある体で、腕や背中、胸の谷間の見える露出度の高い黒いドレスはレアの白いドレスと違い装飾が多く、黒い髪飾りまでつけ、顔には化粧を施している。
レアとは違い剥き出しのエロさがある。
役職は財務大臣らしい。
「…………」
ただ一人喋らないのは小柄な少女のタウ、まだ子供に見えるが、ドレスを押し上げる胸を見る限り、ただ小柄で童顔なだけだろう。
逆に子供でこの胸ならそっちのほうが驚きだ。
一応は文部大臣で未成年の教育や成長環境について仕事をしている。
潤んだ瞳や泣きボクロの儚げな少女で、うつむきながらちらちらと皆の顔色をうかがっている。
オルファ達の席は円卓から離れた場所に用意され、フルーツジュースの乗ったテーブルが前に置かれる。
「バトラ様、連中をいかがいたしましょう?」
ラムダの問いにバトラはさも当然のように答える。
「向かってくる兵は皆殺しだ、容赦はいらねえ」
「ボクは反対だね、向かって来るなら追っ払えばいいでしょ? それと前から言っている通り、和平の使者を送るべきだよ」
弟バトラの発言にすばやく反対するメル、しかし頷く者は誰もいない。
「しかしながらメル様、奴らはこのファルガスの大地を汚す害獣ですぞ、殺す事になんの躊躇いがありましょう」
レオンが続く。
「奴ら人間は我ら魔族を存在そのものが罪だと迫害し理不尽な侵略戦を仕掛けてくる外道、 正義は我らにあるのです」
イーナも、
「お姫様はお優しいのですが、財務大臣の立場から言わせていただければ人間は金喰い虫でしかありません。
人間達が攻め込んでくるせいで無駄な戦費がかかる一方、これだけの資金があればどれほどの事ができるか、タウ」
「はは、はいぃ!」
びくっと肩を跳ねあがらせ、タウは資料で顔の下半分を隠しながらメルの方を向いた。
「えっとですね、文部大臣としましてはその、子供達のために校舎の補修とか充実した設備とかえーっとえーっと、とにかく戦争に予算を回すのはやめてほしいです」
「レオンは?」
「戦争に回す予算を道路整備費に充てて頂ければ、この国はさらに富むはずです」
レオンの言をイーナが補足する。
「荷車が通り易くなるよう、国内の街や村全てを道路で結び、道々を整備すれば物流は盛んになり経済が回ります、それについては姫様に以前説明した通りですわ」
イーナ達の意見にラムダが乗っかる。
「メル様、メル様はこのウェスター王国の姫、国民のことを第一に考えていただかなくては困ります。
国民の血税は国の為に使うべきです、金がかかるだけの防衛戦を続ける事になんの意味がありましょうか?」
「そ、そりゃ国民を守る意味があるでしょ?」
「争いの芽を摘まずにその場しのぎの戦いをしても守った事にはなりませぬ!」
円卓をやや強めに叩き、メルを威嚇する。
「よいですかメル様、国民が人間達に怯える事なく安心して健(すこ)やかに暮らすには人間達が攻めてこないようにする必要性がございます。
その為にも私は、人間への侵攻戦を提案したく思います」
「な!?」
あまりの驚きで、メルは思わず立ち上がりそうになる。
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