第7話 北の爆乳美女魔王レア
メルの部屋はなんというか、凄い部屋である。
解放的な室内には仕切りの無い中庭があって、南国特有の植物が生え、花が咲き乱れている。
小さなプールにはボートやボールが浮かび、さらに室内を色鮮やかな鳥が三羽ほど飛んでいる。
家具からは王族の空気はあまり感じられないというか、ハッキリ言えばお姫様の部屋というよりも南国の島に建てた別荘のような空気だ。
元々南の魔族の国、南国パラダイス・サウザン王国なのだから当然かもしれない。
オルファが以前勉強した内容によればサウザンは宝石や真珠は大量に採れるが、金銀などの貴金属はあまり採れないらしく、多くは通貨に使用しているらしい。
オルファやアルムの魔王城のような金細工製品は難しいのだろう。
だが何もかもが質素と言うわけではなく、メイドが持ってきた飲み物が入ったグラスには小さな宝石が散りばめられている。
そう、サウザンは貴金属は少ないが、宝石類は豊富なのだ。
「なるほどねぇ、話はだいたいわかったよ」
メイドが持ってきたトロピカルジュースを飲み干して、メルはテーブルにグラスを置いた。
「でもそうなるとちょっと困った事があってね、今うちの国、魔王不在なんだよ」
「それなんだけどさメル、ディーノさんが死んだってどういう事だ?」
アルムも、うんうん、と唸って話を促す。
「勇者だよ」
父親の死因を、だが特に気にする様子も無く、メルは横に控えるメイドが新しくついだジュースを飲みながら語る。
「実はうちと隣接しているバルトリア王国にトンデモない人間が現れてさ、天才って奴?
それでボクのパパが兵を率いて国境付近で戦ってたらサクっとね」
父の死を明るく言う親不幸なメルとは対照的にオルファはやや気落ちした表情になる。
「そうか、ディーノさん死んじゃったのか……」
と言って息を吐きだすと、急にいつもの表情に戻り、
「っで、今回の復活にはどれくらいかかるんだ?」
などと聞きだした。
「首切断されただけで頭も体も無事だからね、最低五年、長くて一〇年てとこじゃない?」
「そっか、今回の魔王復活には最低五年か」
「お父さんに五年も会えないなんて寂しいね」
「あはは、五年なんてすぐだってー♪」
死んでも数年で復活、魔族における死などその程度のものである……まったく、便利な体だ。
「ふん、人間程度に負けるとは……そんな人間、次来たら我が瞬殺してくれる」
「いやレア、勇者は勇者でも真の勇者は本気で強いぞ、うちも爺さんが戦った事があるけど、第二形態になっても勝てなくて人間相手に初めて最終形態使ったって言っていた、ちなみにディーノさんは?」
「いや、パパはお酒に酔ってて第二形態になるの忘れて首切られた」
「あちゃー、戦場で酒なんて飲むなよ」
オルファが戦場に出た時に説明したが、本来魔族とは戦闘に関しては全てにおいて人間に勝る存在であり、人間が魔族に勝つには余程の武装や数で圧(お)さなくてはいけないし、一対一で勝った例というのは、熟練の剣士が魔族歩兵と戦った場合だったりする。
それでも、例外というのは常に存在するものだ。
人間は全体的に魔族より弱い代わりに数が多い。
そして数が多い生物というのは、それだけ突然変異も起きやすい。
魔族よりも弱い人間に時折生まれる天才、それが超人であり、その超人が集まったのが真の勇者パーティーである。
いくら魔族が強くても、その頂点に立つ魔王でも、突然変異で生まれた戦いの天才、剣の天才、黒魔術の天才、白魔術の天才という超人四人が伝説の武器や防具に身を固め、チームを組んで襲い掛かってくるとなると分が悪い。
何せ魔王は武器も防具もアイテムも使わず身一つで戦わなくてはいけないのだ。
ちなみに、魔族全体の暗黙の了解として、人間(カタギ)相手に武器や防具、アイテムを使うなど外道の極みとなっている。
認められるのは、最初から剣で戦うのが前提の剣士魔王が魔剣を使ったり、頑丈なローブを着るぐらいは認められる。
そしてどうしても死にそうならば第二形態と最終形態を使ってもいい、それぐらいだ。
こちらは身一つで戦わなくてはならないのに、勇者達は四人がかりでオリハルコン製の防具で守りオリハルコン製の剣で斬りかかり、ダメージを与えても与えても回復アイテムでバンバン回復してくるのだ。
人間とは思えない天才的な強さを持つチート装備連中に素手で戦い、やっと結構なダメージを与えられたと思えば僧侶が味方を全回復、泣きたくなるがそれはまだいい、白魔術は修業の末に身に付けた技だ。
しかしだからこちらが僧侶と他の仲間を遠ざけるように考えて戦いながらまた結構なダメージを与えて「勝てる!」と思えばちょっと目を離した隙にエクスポーションを使われ全回復。
正直、魔王と言えどキレたくなってくる。
これでは魔王が人間に負けるような事が起きても仕方が無く、逆に人間如きが魔王を討伐できるはずが無いのに勇者が魔王を退治した伝説があるのは、そういうカラクリがあったのだ。
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