第6話 西の美少女魔王アルム
大きな胸を張り、声高らかに宣言した途端、兵士達が悲鳴を上げる。
「レ、レア・ノーザンドォーー!?」
兵士達はガクガクと震え、涙を流しながら地面に顔面を叩きつけるようにして土下座をしたまま縮こまる。
アルムとはまた随分と扱いに差がある。
「む? これはどういうことだオルファ、我は何かマズイ事をしたか?」
「いや、レアって結構な噂が立ってるからさ」
「噂? 噂とはなんだ?」
言いにくそうに視線を泳がせながらオルファは、
「えーっと逆らう者は皆殺しとか片手でバスタードラゴン屠るとかおやつ代わりにベヒーモスの生き胆を食べているとか、あと死刑執行を酒の肴にしているとか、ていうかぶっちゃけ氷の女王って言われているし」
「そんな噂誰が広めた?」
眉根を寄せ、やや不機嫌そうなレア、オルファは苦笑いしか返せない。
「まったく、我のオヤツはスペシャルパフェの女体盛りだし酒の肴は美少女同士のオイルレスリングだぞ」
「って他は本当なの!?」
「お前はどんだけレズなんだよ!?」
「レズでは無い男女両刀だ! だから貴様ら両方我のモノになれ!」
「握り拳作っててめぇは何言ってんだよ!」
「そうだよそんなこと」
「何を言うアルム、我とお主の二人がかりでオルファを気持ち良くしてやるというのも悪くないだろう、野獣と化したオルファが骨抜きになるまでヤリ放題だぞ」
周りの兵士には聞こえないよう耳打ちするレアの提案に、アルムは顔がリンゴのように赤くなる。
「そ、そんなのダメだよ! とにかくこんな話してないで、早くディーノさんに会いに行こ!」
三人がスカイドラゴンの背から降りると、オルファはスカイドラゴンを召喚陣に通して城へ返す。
「というわけだ、おい門番そこを通せ」
門の前で震える門番に、レアが命令する。
「いや、ですがその、現在他国の方は通さないよう命令が出ておりまして」
「お主」
レアの手がポン、と門番の肩に乗る。
「死ぬか?」
本気の眼だった。
脅しでなく、本当の、本物の、真の殺すという意志の込められた眼光に、一魔族が逆らえるはずもなく、門番は声にならない悲鳴を上げて失禁しながら逃げて行った。
「ふむ、間違った噂も少しは役に立つな」
なんというチート。
むしろヤクザである。
「よし、心優しい門番が入っていいそうだ、行くぞオルファ、アルム」
乱暴に城の巨大な門を開けるとレアは我が物顔でエントランスに入り叫ぶ。
「東西と北の魔王がわざわざ来たぞ! 南の魔王ディーノはどこだ! 散々人の親書と使者を無碍(むげ)にして来たのだ! 申し開きがあるならば聞いてやってもよいぞ!」
「一体何事だ!?」
声は二階の廊下からだ。
レアが見上げるとそこには、長身の筋骨逞(たくま)しい青年が立っていた。
「なんだ貴様は、急に人の城に上がり込んで騒々しい」
「聞こえなかったか? 東西と北の魔王三人だ、親書や使者を全て無視するのでわざわざこうして来てやったというわけだ」
不敵に笑うレアを、青年は憎らしげに顔を歪める。
「東西と北の魔王だと? そんな重要人物が三人も同時に来るはずが無いだろう?」
当然過ぎる質問だ。
サミットを開こうというならともかく、国の最重要人物がのこのこと、それもなんの護衛も無く、三人まとめて来るなど正気とは思えないが、
「三五通の親書と三五種類のバリエーション溢れる使者が通じないのでは仕方あるまい、それに我々は緊急サミットを開きたくてな、だから緊急で来たのだ」
レアの大きな態度に青年は舌打ちをして手すりを握りしめ、後から来たオルファとアルムを睨みつける。
「ああそうかい、オレはバトラ・サウザン、死んだオヤジの後を継ぐ次期国王だ!」
死んだ、という単語にオルファとアルムの目が一瞬止まる。
そのような話は聞いていない、てっきりディーノ王はまだ健在だと思っていたのだ。
しかしレアだけは気にした様子は無い。
「そうか、それで次期王という事はまだ王位は継いでいないのだな?」
「急に死んだんでな、だが王位を継ぐのはオレだ」
その言い回しにオルファはひっかかりを感じて、その正体はすぐに分かった。
「あれ? お客さん?」
一階のドアから現れたのは小柄な少女だった。
青いショートカットヘアーと瞳が印象的で、熱い南国のせいか袖が無く、お腹を出した露出度の高い青いドレスはスカートが短く可愛いヒザが見えている。
もっともレアは実家の北国にいる時から腕や胸の谷間はおろか背中も大胆に見せた白い、セクシーなドレスを着ているのだが……ついでにスカートに入ったスリットから健康的な美脚がチラチラ見える。
「俺は東の魔王、オルファ・イスタンスだ、この二人は北の魔王レア・ノーザンドと西の魔王アルム・ウェスターだ」
「そうなのー? ボク他の魔王と会う初めてかも、外交関係はいつもパパが向こうに行くか時々外から人が来てもだいたいボク外で遊んでたから、ボクはメル・サウザン、次期魔王候補であの眉間にしわ寄ったハンサム君の双子のお姉ちゃんだよ♪」
魔王候補、やはりそういう事らしい。
先程バトラは、王位は自分の物だと念を押すように言ったというこういう事情があったからだ。
オルファは納得して、友好的なメルに話しかける。
「それで緊急のサミットを開きたいから何度も親書と使者を送ったんだけど届かないみたいだから、こうしてわざわざ来たんだけど今話できるかな?」
「親書と使者? ……ふ~ん」
メルの視線が二階の弟、バトラへ上がる。
バトラは舌打ちをして、さっさとドアの中へと消えてしまった。
「とにかく魔王さんがわざわざご苦労さま、まずはボクの部屋に来てよ、話はそこでね♪」
彼女の弾ける笑顔が眩しかった。
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