第5話 東の魔王オルファ
「ははは、三五種類の使者とはオルファもなかなかおもしろい事をするではないか」
「笑いごとじゃないよレアさん」
「しかしオルファの国には我の知らない服がたくさんあるのだな」
「魔王になる前は織物大臣だったオルファくんが次々斬新な服作っちゃうから」
「ルヴィーが作った物もあるけどな、今年も水着ではモノキニ、下着ではスパッツっていうのを作ったぞ、ちなみに国立女子高と女子中の制服、それに城内のメイド達のメイド服も今年中には一新する予定だ」
「ほお、それは是非見てみたいな」
南の魔族の国、サウザンまでの道中、合流したのは北の魔王、レア・ノーザンドである。
同じ女性のアルムが見惚れてしまうほどの絶世の美女であり、流れるような銀髪と真紅の瞳、永久凍土の世界に生きる事を物語るようなキメ細かい白い肌は天性のモノで、髪や肌の手入れは一切していないとのこと。
さらに、そんなガラス細工のような美しさを持ちつつ、女性でありながら男性並の長身で手足が長く、運動で培われた筋肉で全身がキュッと引き締まっていて、余りに豊かなバストとヒップは張りに満ちて全裸になっても下着に支えられているかのように美しい女神の曲線を保つ。
ちなみにレアはオルファとアルムの前で全裸になった事があり、彼女はやや露出狂の気がある。
だがそこが彼女の良さとも言える。
最初は彼女の絶対美に誰もが緊張してしまうのだが、気風が良く、細かい事を気にしない豪快で少しズレた天然性格が相対する人物の毒気を抜いてしまうのだ。
「もう少しで城だな」
オルファ達の移動経路は主にドラゴンである。
魔族の国は全て背後に海を背負って他三方向を全て人間の国と接しているため陸からは行けない。
そのためスカイドラゴンに乗って空から一気にサウザウン王国の王城まで行くのだ。
当然海から周り、港で降りて、王都の関所を抜けるのが礼儀正しいやり方だが、こちらは使者を三五人も門前払いにされている。
正攻法で行っても通して貰える可能性は低い。
故に今回の作戦は至って単純。
超直談判である。
最強の矛たる魔王が離れるため国防の為兵や四天王は国に残してきている。
そもそも大人数では動きにくい。
結果、北の魔王レアが提案したのがこの超直談判である。
楽しげに話しているように見えるが、今オルファ達は音速一歩手前の空の旅の途中だ。
華奢なアルムでさえスカイドラゴンの背に苦も無く捕まり振り落とされないところから、やはり彼女も魔王である事がよく分かる。
「よし、じゃあ行くぞ」
スカイドラゴンが一気に下降、いきなり城の敷地内に降りる。
国際問題に発展しそうな行動だが、元から魔族同士は良好な関係にあるし、魔族にとっての国境というのは魔族と人間の国境という意味が強い。
こちらは魔王という事もあり、面倒な取り決めだらけの人間の国と違って魔族同士ではこの程度「乱暴な登城ですねぇ」で済む。
スカイドラゴンの接近と同時に周辺の兵が慌て、だが庭園に着陸したドラゴンが装備する怪物用の鎧(カタクラフト)に東の魔王、イスタンス家のエンブレムが入っている事を見るとすぐに姿勢を正して一斉に跪いた。
国旗ならば国の重鎮や軍隊だが、王家のエンブレムはその通り、まさに王族だけに許されたドラゴンの証、そして王族でも空の移動には普通ワイバーンを使い、希少なスカイドラゴンは魔王専用、つまり、その背に乗るのは。
「東の魔王、オルファ・イスタンスだ。南の魔王、ディーノ・サウザン殿に面会に来た」
「これは東の魔王様」
「よくぞお越し下さいました」
「ああ、それと」
オルファのが視線を隣に投げる。
「西の魔王、アルム・ウェスターです、みなさんどうもこんにちは」
アルムが顔を出すと、急に兵士達が立ち上がり舞い上がる。
「ア、アルム様だ」
「本当だ、みんな本物のアルム様だぞ」
「こっち向いて下さいアルム様」
「サインください」
「随分な人気だな」
兵士達の変わりようにレアは頭に疑問符を浮かべる。
「アルムは実家のウェスター王国だと魔王っていうかアイドルなんだよ、うちの国でも写真集と音記録魔石(レコード)売ってるし、ノーザンド王国は売ってないのか?」
「売っているかもしれんが我はそういうサブカルチャーには詳しくないからな」
「あの、東の魔王様、そちらの方は……」
美し過ぎるレアの登場に兵士達は見惚れているが、
「ふん、我は北の魔王、レア・ノーザンドである」
大きな胸を張り、声高らかに宣言した途端、兵士達が悲鳴を上げる。
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