第4話 魔王は邪神復活を阻止したい



 二人はバルコニーのイスに座り、メイド長の淹れた紅茶を飲みながら現状を整理する。


「まず今から二千年前にこの大陸に現れた邪神を俺らの祖先が倒して封印した」

「だけど人間達の伝説だと人間の勇者が倒した事になっているんだよね……」

「まぁ、邪悪な魔族に助けられたなんて思いたくないだろうからな、歴史の改ざんはあいつらの趣味だろ、大陸救ったのに憎まれ役なんて報われねぇよな」


 付け加えるなら、当時大陸を破滅に導いた邪神を倒した魔族は、邪神以上の脅威だと人間達が恐れ、むしろ迫害は酷くなったと言える。


「でもその封印ていうのが期限付きで来年の三月に解けちゃうんだよね?」

「そうそう、しかも人間達が最近伝説を記したレリーフが新しいの出土したとかで解読結果から『邪神は二千年後の三月に解き放たれるであろう』って一文から……」


 オルファとアルムは暗い顔を向き合わせる。


「「魔族が封印を解くって意味だと思っちゃったんだよねー」」

「わたし達魔族側には明確な記録で封印は丁度二千年しか持たないから気をつけるよう資料残ってたけど、人間側には伝承として、しかも漠然としか書いてないから……うちも最近は人間達の侵攻が激化する一方だよ」

「ああもう誰だよそのレリーフ彫った奴! ちゃんと解ける理由も書いとけよ! だから後世の人が勝手にあれやこれやと解釈つけちまうんだろうが!!」


 テーブルを叩いて頭をがしがしと掻くオルファにアルムも同感だった。


「どうして昔の人間て記録を抽象的に残すんだろうね、魔族が天気記録で何年何月何日に雹(ひょう)が降ったって書いた日の事人間側だと『○年×月△日、天から雪の王が災厄を運び人々に仇なした』って書いてるんだよ」

「気取ってんじゃねえぞ古代人!」

「むしろ中二病だよね?」

「ああ、何々の王とか災厄とか、そういう単語好きだよな」

「それで霊脈的に霊格の高い魔族の国四つに封印の塔建てたんだよね? うちの国は先月封印のかけ直し作業終わったけどオルファくんは?」

「うちも先月終わった。北の魔王も先月中に終わらせたらしい、でもなぁ」

「南の魔王さんとまだ連絡取れてないんだよね?」

「メイド長、俺が出した親書の数は?」

「三五通ですよ」


 メイド長の顔にパッと笑顔が咲く。


「返事は?」

「まだ一通も帰ってきてないですね」


 笑顔の花が枯れた。


「封印は四つの塔全ての封印が万全じゃないと機能しない、このままじゃ俺が人間達とした盟約がおじゃんだぜ、メイド長」

「はいはい、ここにありますよ」


 言いながら、メイド長がスカートの中から書簡を取り出し、開いて中の羊皮紙をアルムに見せた。


 人間達の国の中でも特に強大な力を持つ三大王国の調印がされた盟約書の中身は至って単純。


 魔族が邪神復活を目論んでいない証拠に封印のやり直しは魔族が執り行い、その証拠として、封印が解けるとされる来年三月を過ぎ、四月になっても邪神が復活しなかった場合は魔族四カ国全てとの間に平和条約を結び、以後の侵攻を永久に禁止するというものだ。


 相手の王と直接会う事はできなかったが、オルファは親書のやり取りでなんとかこの盟約を結ぶ事ができた。


「けど南の魔王との連絡がなー、メイド長、俺が派遣した使者の数は?」


 メイド長は慎ましい胸を張って、

「三五人です」

「結果は?」


 慎ましい胸に手を当てて、

「全員門前払いです」

 その目には一筋の涙が零れる。


「色々なバリエーション試したから使者に問題があるわけはねえよなぁ」

「バリエーション?」


 初めて聞く事にアルムが小首を傾げる。


「ああ、一人目は無難な使者送ったんだけど門前払いだったらしいからよ、使者自体が気にいらないのかと思って、女性使者として、


 大人のお姉さん系、隣のお姉さん系、世話好きお姉さん系、お色気お姉さん系、甘え妹系、生意気妹系、お嬢様系、霊感少女系、不思議少女系、女教師、看護婦、メイド、婦警、軍人、修道女、ゴスロリ、スク水、セーラー服、ブルマ、体操着、計二〇人が駄目だったから男の方がいいのかと思って、


 ワイルド系、ショタ系、知的眼鏡系、クール系、俺様系、スポーツマン系、S系、M系、露出狂系、ストーカー系、電波系、不良系、ボディビル系が駄目で先週おネェ系を送ったけどそれも門前払いで次はハードゲイ系送ろうかと思ったんだけどもう時間がねぇからな」


 アルムの顔に深い影が挿し込む。


「……オルファくん、たぶんそれ途中から嫌がらせだと思われてるよ」

「ん? なんでだ?」

「……いや、なんでもない」

「やっぱ薄幸の美少女系が良かったのかなー、でもうちの城内に薄幸な奴いないし」


 オルファ・イスタンス、ちょっとズレている魔王である。


 というよりもイスタンス家魔王軍自体が全体的に大切なネジが飛んでいる。


 オルファの言う通り、頭の中が一年中お花畑のこの城内で薄幸な人を探すのは至難の業だろう。


「まぁとにかく親書送れば返信無しで使者を送っても門前払い、じゃあもうこれしかないな」

「そうだね、北の魔王のレアさんは先に行ってるって」

「そうか、じゃあ」


 二人はカップをテーブルに置き、空の彼方へと視線を投げる。


「「うちら魔王が直談判といきますか」」


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