第3話 人間YOEE
「そんな見え透いた罠に騙される勇者がいるか!」
「そうやって油断させ殺すのだろう!」
「魔族がやりそうな手だ!」
「神の威光の前にひれ伏すがいい!」
今朝、その特権を使いいきなり襲ってきた勇者パーティーがいたのだがその事を伏せるオルファ、彼は優しい魔王なのだ。
「さあ、勇者の一撃を喰らうがいい!」
「俺の剣を喰らえ!」
「我が魔術で灰になるがいい」
「神の前に跪くがいい」
「おい四番目、最後のそこの僧侶、お前みんなからウザいって言われないか?」
「何を言うか! 神のありがたーいお言葉に耳を貸さない連中が悪いのだ! 神の言葉を聞かない不届き者になんと言われようと私は気にしない!」
仲間の三人が顔を背けている所を見るとどうやら彼らもウザいと思っているらしい。
「と、とにかく行くぞ、剣士!」
「おう勇者!」
勇者と剣士が気を取り直して左右から一気に駆け寄り斬りかかって、
「ほい」
オルファはその剣を素手で受け止める。
「「なぁ!?」」
剣の刃を素手でそれぞれつかみ取り、だがオルファの手からは出血など無い。
勇者と剣士は必死にその剣を奪い返そうと身をよじるが剣は時間が止まったようにピクリともしない。
オルファが手を離すと勇者と剣士はのけ反って尻餅をついた。
「おお悪い、大丈夫か?」
「聖なる縛り!」
僧侶が杖を一振りすると彼が使える最大拘束呪文が発動、光の輪がオルファの腕を胴体ごとまとめて拘束。
そこへ魔法使いが杖を向ける。
「ギガファイアボール!」
大樹すら焼き払う巨大な火球が迫る中、オルファが少し力を込めると光の輪は砕けて、右手のデコピン一発で火球は魔法使いへ跳ね返る。
「のぎゃああああああああああ!!」
火に巻かれて魔法使いが悲鳴を上げる。
「おのれよくも魔法使いを!」
「貴様には血も涙も無いのか魔王!」
「神の下す天罰で死ぬがいい!」
「お前らもういいよ」
オルファが踏み込みボディブロウを同時に二発、勇者と剣士の腹に打ち込んで二人の鎧が砕け散る。
草原に倒れてから盛大にゲロを吐いている勇者と剣士、全身からプスプスと煙を上げながら黒コゲになった魔法使い。
最後に残った僧侶は失禁し、白い僧衣の股間のシミが猛スピードで広がって行く。
「おお! たった今神託ですぐ帰るよう神が仰っている! というわけで私は帰らせてもらう! 逃げるなら命は救ってくれるんだよな? それじゃ」
仲間達を捨ててくるっとターンののちに全力ダッシュ。
口先だけの鬼畜僧侶に、オルファは風呪文を一発。
突如発生した竜巻に勇者、剣士、魔法使いが巻きあげられて、三人は綺麗に逃げる僧侶に降り注いだ。
「ひでぶぅ!」
「それが仲間の重みだわかったか?」
ビシッと指を差してから、オルファは面倒そうに黒髪を掻きあげた。
「ったく、こりゃさっさとあの計画進めないとな」
「キャーキャー、オルファちゃんかっこいい!」
「どわぁ!」
背後から飛びかかり、真っ赤になったオルファの頬に何度もキスをするルヴィー。
オルファちゃんエネルギーの充填に今日も余念が無いルヴィーだった。
「オルファくんおかえり」
「もう来てたのかアルム」
城に戻ると、そこには幼馴染の西の魔王、アルム・ウェスターがメイド長とバルコニーで紅茶を飲んでいる姿があった。
茶色の髪を肩口で斬り揃えた可愛らしい少女で、オルファと会えた事が嬉しくて髪から飛び出した長い耳がピコピコ動く。
スタイルが良く、明るいオレンジ色のドレスとブーツが良く似合っている。
身長は決して低く無いが、オルファが長身のせいで昔から大きく見降ろせてしまう。
「悪いなわざわざ来てもらって」
「大丈夫だよ、仕事はお母さんと四天王のみんなが頑張ってくれているから」
可愛い声と笑顔に思わずオルファも笑顔になる。
これで西の魔王というのだがから、人間達に言っても嘘だとしか思われないだろう。
とはいえ、早く魔王業に慣れさせるために、アルムの母親が早々に世代交代しただけでまだ仕事の多くは母親がやっている為、実質的な魔王はアルムの母と言える。
「おじさんとおばさんはまだ帰ってこないの?」
「ああ、あの年中新婚気分夫婦は俺に王位を押しつけたまま世界一周旅行から帰ってきませんよと、へっ、何が帰ってくる頃には新しい弟か妹ができちゃうかもだ」
眉間にシワを寄せて毒づくオルファ。
オルファの言う通り、オルファの両親はほぼ一日中ベタベタしているバカップルでオルファは魔王になる前からロクに働かない両親に変わって執務に当たるハメになっていた。
オルファ達がいるこのファルガス大陸はだいたい円に近い形をしている。
そして大陸の極東と極西、極南と極北にはそれぞれ魔族の国があり、人間達の領地は魔族同士の国の間に割って入るように、太い×印状になっていて、その中に多くの人間の国がひしめき合っている。
その全ての国が魔族と敵対し、時代によって温度差はあるが、もう何千年も争いが絶えない。
「そ、そうなんだ、でもでも、夫婦の仲がいいのはいいことだよね?」
頬を赤らめ、もじもじしながらオルファを上目づかいに見るアルム、目からラブビームを絶えず放っている。
が、最強の精神防御力を誇るオルファには通じない。
彼の装甲は厚過ぎて城中のメイド達のラブ光線×一〇〇〇にも耐えうるのだ。
と言うよりも幼い頃から攻撃を受け過ぎてソレが日常になって特別な事に思わなくなった節がある。
「それとオルファくん、これ、ハンカチに刺繍入れてみたから、使ってくれる?」
アルムが差し出した上質な布には、四隅にそれぞれ季節の花の刺繍が施されている、とてもではないが、少し練習した程度ではここまで見事な刺繍はできないだろう。
「ありがとうアルム、お前将来いいお母さんになるぞ」
決していいお嫁さんとは言ってもらえない、アルム・ウェスター、報われない娘(こ)である。
「どうしたアルム? なんか顔が暗いぞ」
「ううん、なんでもないの、それより計画について話そ」
「? ……おう」
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