第2話 魔族TUEE
戦場は一言で言えば酷い有様だった……人間側にとって。
広大なアルドラ平原は人間達の血で赤く染まり、人間達の悲鳴に満たされている。
人間軍の数はおよそ二万、最初はもっといたのだろうが、なんとかまだ生きているのはその程度だ。
すでに戦いが始まってからだいぶ経っている。
これでは今さら話し合いは無理だろうと、オルファはスカイドラゴンに火球を一発を吐かせ、人間兵三〇人を殺してから叫ぶ。
「人間達よ! 魔王オルファが出る! 逃げる者は今のうちに逃げるがいい!!」
いかにもなセリフを告げると案の定人間達に不安が走る。
それからオルファは自軍まで飛んでドラゴンから降りる。
「これはオルファ様、それにルヴィー様」
この場を任されていた副将軍が沈んだ顔を明るくして駆け寄ってくる。
「現状は?」
「二〇人ほど負傷し前線から戻ってきましたが死人は出ておりません、逆に人間の方は既に五千人ほど死んでいます」
人間達には悪いがこれが現実だ。
そもそも魔族は生まれながらにして人間よりも体力、魔力ともに優れており、しかも寿命は人間の一〇倍、単純計算でも一〇倍の経験が積める。
人間達の中にはこの道三〇年のベテラン、などと偉そうに語る者がいるが、魔族の中には一〇〇年、二〇〇年のベテランがゴロゴロしている。
今の戦場でも一〇〇年単位で剣の修業をしてきた魔族兵士の一人が人間の兵士九人に取り囲まれているが、長年の経験から九人の動き全てを把握し、先読みし、華麗にかわしながら一人、また一人と必要最小限の動きで殺していく。
言ってしまえば、人間が魔族より勝る部分など無く、戦いに勝てる筈がないのだ。
魔法戦も同じで、おそらく何年も魔法の修業をしたであろう魔法使い部隊が一斉に攻撃呪文を放つが魔王軍の魔術部隊はさらにその数段強力な攻撃呪文を苦も無く放ち、人間達の呪文を掻き消し、そのまま人間達を呑みこんだ。
「説得は?」
眼鏡を上げて、副将軍は眉根を下げる。
「残念ながら、邪神復活をもくろむ悪しき魔族を打ち倒すと皆さんバーサーカーです」
「しゃーないな、兵退かせといてくれ」
それだけ言って、オルファは駆けた。
駆けて、たっぷりと助走をつけて跳躍。
一度の跳躍で自軍の頭上を飛び越えて、一〇〇メートル以上も跳んでから空を蹴り、空中ジャンプの連続でそのまま敵軍まで到達すると右手から着地して、
「地属性極大呪文(アース・クエイク)!」
いきなり地属性の極大呪文。
人間では一流の魔法使い数十人が儀式を行いようやく行使できる大呪文も魔王の手にかかれば指パッチン感覚である。
本物の大地震が起こり、人間の平衡感覚では立つ事叶わず全員地に叩き伏せられて、地割れに軍隊が飲みこまれ免れた兵士も大地にしがみついたままなにもできない。
ようやく地震がやんで見上げれば、たった一人で山が如く威圧感を放つ黒衣の魔王がそこにいる。
漆黒の髪と目に皆恐れおののき、腰を抜かしたまま逃げるものが大半だが、それでもなお立ち向かう者もいる。
「今逃げるなら命は助けるぞ?」
「黙れ魔王! もとより死は覚悟!」
「貴様を前に逃げたとあっては家の名折れ」
「貴様と戦い死ぬならば本望だ!!」
「いざゆかん!!」
「じゃあ来い」
指でクイクイっと誘って、四人の兵士が一斉に槍を突き出した。
オルファの力なら瞬殺もできたがあえて一撃を許す。
四本の槍は一本残らずオルファの胴体を捉えて、だが触れる直前で見えない壁に邪魔されるように止まってしまう。
魔王を倒さんと、一生懸命に肉迫する様子を確認してから、オルファは緊張の糸が切れたように溜息をついて再度告げる。
「お前らもう頑張ったからさ、これでやめないか? 頑張ったけど駄目でしたって事で収めてくれよ」
話は聞いていない、兵士達は歯を食いしばり、なおも殺そうと力を込める。
「……警告はしたからな」
横に一閃、義人が右手を振ると衝撃で四人の頭が吹っ飛んだ。
そこへ、
「見つけたぞ魔王!」
「ここで会ったが百年目!」
「我らに会ったのが運の尽きだったな!」
「聖なる神の力の前にひれ伏すがいい!」
朝とはまた別の勇者パーティーである。
「えーっと、うちは手続きすれば勇者はフリーパスで城に入れるんだけど、ちゃんと観光案内見たか?」
黒マントの中から一冊の薄い冊子を取り出して『イスタンス王国観光ガイド簡易版』と書かれたソレのページを開き『ほら』と勇者達に見せる。
勇者様ご一行限定特典、国境の検問にて手続きをすれば
その日一日有効な魔王城フリーパス券がタダで貰えます。
フリーパスを持っていると近衛兵やトラップを無事に抜
け、万全の状態でいきなり魔王様と戦えます。
また、すでに体力や魔力を消耗されている場合は全回復
サービスを受けられます。
なので途中の魔族やモンスターを傷つけないようお願い
します。
(魔王様は勇者達のパッション溢れる挑戦を二四時間待
っています)
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