第15話 魔王の姫がサキュバスに進化しました


 それから一週間後。僕のもとには、姫様の初陣が決まったという書状が届いた。


 初陣はさらに一週間後。出陣式を行い、そのまま戦場へ赴くとのことだった。


 僕が姫様と再開したのは、出陣式の夜だった。


 僕は新米の従者なので、出陣式では姫様の側にいけなかった。


 出陣式が終わって、戦場へ行軍しはじめて、最初の野営のときに、僕の前にレムが現れたのだ。


「レイヴ様。姫様のもとへとご案内致します。どうぞこちらへ」


 そう言うレムのうしろについていくと、当然ながら軍列の中央へと向かっていた。


 今回の遠征軍は総勢五〇〇〇人。加えて、荷物を運んだり騎馬兵や竜騎士が乗る用のドラゴン、ヒポグリフ、グリフォンが何百頭も従軍していた。


 野営する兵や、鎖で繋がれたドラゴンの間を抜け、僕が案内されたのは、総大将用の広い天幕だった。


「姫様、レイヴ様をお連れしました」


 レムに招かれる形で天幕のなかに入ると、内装に驚かされる。


 天幕、とは言っても、そこはまるでお城の一室だ。


 地面には絨毯が敷かれ、天蓋付きのベッドや大きな姿見の鏡、衣装ケースが用意されている。どうやっているのかは知らないけど、天幕なのにちゃんとした板張りの壁や天井まである。


 天幕というよりも、まるで組み立て式の家だった。仮設住宅だ。


 なのに、その主である姫様は浮かない顔だった。


「姫様?」

「……あ、レイヴ。失礼しました。よく来てくれましたね」


 姫様はイスに座ったまま、心ここにあらず、といった具合だ。


 僕の格好を目にして、姫様は口に手を当てる。


「まぁ、素敵な格好ですね。どこからどう見ても、魔王軍の立派な騎士ですよ」

「師匠が用意してくれたんです。それより姫様こ……そ……」


 出陣式のときから気にはなっていたけど、なんていうか、姫様の格好はすごかった。


 一言で言うと、露出度が多い。布で覆っている部分も、体にフィットしていて、ボディラインを際立たせているし、スカートも短い。


 元服の儀である初陣をするということは、つまり姫様は第二形態に進化したということだ。第二形態に進化した姫様は、前より少し身長が伸びて、顔立ちもちょっと大人っぽくなった気がする。でも、姫様の可愛さは少しも損なわれていない。むしろ前よりも魅力的になったくらいだ。


 あと、おっぱいがふたまわりくらい大きくなっている気がする。衣装のせいで目立っているわけじゃ、ないよね?


 僕は何も言えず、姫様の衣装姿に見惚れてしまう。


 僕の汚らわしい気持ちに気づいたのか、姫様は両手で自分の胸を抱き隠した。


「うぅ……なんでこんなことに……」


 せっかくの元服の儀なのに、姫様は元気がない。


 でも、戦争を怖がっているというわけでもなさそうだ。


 僕の気持ちを察したレムが、姫様の前に進み出る。


「実は姫様は、デビルからサキュバスに進化したことを気にしているのです」

「サキュバス?」


「はい。悪魔族には複数の進化ルートがあるのです。兄上であり、現魔王様であらせられるサイファー様は、デビルから魔力と体力両方に秀でたデーモン、グレートデーモン、そして第四形態のサタンへと進化しました。ですが姫様は、魔力に優れ魔術を得意とするサキュバスに進化してしまったのです」


「魔術を得意とする? それでどうしてダメなの? 姫様ってアミラみたいな剣士だったの?」


 レムはお人形さんのような無表情を崩さず、たんたんと説明する。


「いえ、ですがサキュバスの特徴として、バストとヒップの発育がよくなり、性的魅力に溢れた容姿になるのです。その上、他人の性的欲求を高める異能の力を持っているため、サキュバスは大変な好色家である、という俗説があるのです。サキュバスのなかにはそのことを利用し、男性を手玉にとる方もいるのですが……」


 レムの視線が、チラリと姫様に向く。


 姫様は、いままで以上に大きくなってしまった胸を抱き隠しながら、恥ずかしそうにうつむいたままだ。


「うぅ、王家の、サキュバス用の戦装束って、なんでこんなにエッチなんでしょう。見え過ぎです……」

「ご安心を姫様。その衣装には特別な防御呪文をほどこされているので、露出した皮膚もしっかりと敵の攻撃から守ってくれます」

「そういう問題じゃないんですッ」


 姫様は、ちょっと唇を尖らせてレムに抗議する。


 その姿が、なんだか年相応の女の子っぽくて、僕はなごんだ。


 姫様って言っても、やっぱり普通の女の子なんだな。


 そこへ、アミラの声が割って入る。


「失礼します姫様。現在の戦況について報告があるのですが、って、レイヴ?」

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