第13話 使い魔のスライム幼女
再び目を覚ますと、僕は師匠の部屋のベッドに寝ていた。
上体を起こすと、師匠はきっちりと魔女の衣装に身を包み、コーヒーを片手にクールに魔導書を読んでいた。
「むっ、起きたかレイヴ。やれやれ、近いうちに初陣だと言うのに、未だにあたしから一本を取れないとは情けない」
僅かに苛立ちを含んだ声に、僕は肩を落とした。
「ごめんなさい師匠……」
僕が謝ると、師匠は怒りのボルテージが上がっているんだと思う。顔を真っ赤にして僕に歩み寄る。
「姫様の従者という大役を仰せつかっておきながら、謝って済むかぁ!」
師匠は僕に飛びかかると、ベッドの上でグランドコブラツイストをかけてきた。
「いやぁあああ! 許して師匠!」
師匠は僕と体を密着させて、両手で僕の体をしっかりホールド。
痛みに苦しむ僕を気にせず、師匠は長々とみっちり関節技をかけ続けた。
僕をこの苦しみから救ってくれたのは、とても可愛らしい声だった。
「まーまー、そのひとがピムのますたー?」
ベッドのすぐそばに、とてもちっちゃな女の子が立っていた。
ピンクの髪と瞳で、ピンク色のワンピースを着ている。
年は、五歳か六歳くらいかな。
くりくりしたお目めがとても可愛らしい女の子だった。
「そうだぞピム。こいつがお前のご主人様のレイヴだ」
師匠は僕から離れると、その女の子、ピムを抱き抱えた。
師匠に抱き抱えられたピムは、無邪気な顔で笑いながら師匠に胸に甘え、それから僕のほうに手を伸ばした。
「師匠、その子、誰ですか?」
「お前の使い魔だ」
「使い魔?」
僕が聞き返すと、師匠はピムを僕によこしてくる。僕に受け取られたピムは、外見通りの幼い仕草で僕に抱きついて、胸板に甘えてくる。
僕のひざにちょこんと座るピムを抱き抱え、僕は顔を上げた。
「かいつまんで説明するとだな、ピムはお前の血を触媒に作り上げたピンクスライムだ」
「スライム? この子が?」
「うん、ピム、スライムだよぉ」
ピムは無邪気な笑顔を見せると、体全体が半透明になった。スライムボディをプルプルと震わせて『ほらほらー』となぜかうれしそうだ。
「うんすごいね」
僕が頭をなでてあげると、ピムは幸せそうに笑ってまた抱きついてくる。
「いままでお前の血を、あたしのイヤリングに集めていただろう? あれは、いつかお前に使い魔を作ってやろうと思って集めていたんだ。予定よりも少し早いが、いつ出陣になるかわからないからな」
スライムは、魔界に住む種族のうちのひとつだ。
パット見は人間と変わらないけど、体をゼリー状、または液体状にできる。女の子しかいなくて、繁殖には他種族の男性の協力が必要だけど、魔術に長けた人ならゼロから生み出すこともできるらしい。
そのため、そもそもスライム族は大昔の高名な悪魔か魔女が生み出した人工種族だとする説もある。
「着てみろ」
いつのまにか師匠はベッドから離れて、チェストから黒い戦装束を取り出して、僕に投げ渡す。
言われるがままに僕が装束を着る間に、師匠が説明をはじめる。
「お前が戦う日がきたときにと作っておいたものだ。あらゆる魔法ダメージを軽減し、熱や冷気を遮断するグレーターシルクワームの糸と、ダマスカス鋼より強靭なグレータースパイダーの糸をより合わせて編まれたものだ」
「すごいじゃないですか、ありがとうございます」
実際に着てみると、着心地も抜群だ。おまけに軽い。
「しかしひとつだけ弱点があってな。あくまでも布で、伸び縮みする特質上、打撃系の攻撃はあまり軽減してくれない。そこでピムだ。ピム」
「うん。ますたー、うにょーん♪」
ピムは僕の背中に飛びつくと、体を液状化させて、服のなかにはいってきた。
「あ、冷たくてきもちぃ」
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