第7話 スカウト
「でで、でも僕はただの平民で、軍隊経験なんて……」
僕が言い淀むと、師匠の鋭い掌底が僕の頬を突き飛ばした。僕は痛みにうずくまる。
「待って下さい姫様! こんなバカ弟子を近衛兵になど正気ですか!? こいつは本当に無能の役立たずでできることといったら飯の用意と掃除と洗濯、風呂と着替えの世話ぐらいですよ」
「ますます近衛兵にぴったりですね。ではレイヴにはメイドのレムと一緒に、近衛兵のなかでも特に身辺を守る従者としてついてきてもらいましょう」
両手を合わせてにっこりとほほ笑む姫様。対する師匠は歯を剥き出しにして手をわななかせる。
「どうしてそうなるのですか姫様~。いいですか、こいつはスケベでハレンチで巨乳より爆乳、爆乳より超乳が大好きなおっぱい星人で美人を見ると何も手につかなくなる真ピンク思春期野郎なんですよ!」
「師匠、恥ずかしいから言わないでください!」
確かに僕はハレンチで汚らわしいけれど、半分くらいは師匠のせいなんですよ! と僕は心のなかで抗議をしてみる。
すると、姫様の隣に控えているメイドのレムが、無表情のまま、無感動な声で、
「え? 思春期なのにその程度で済んでいるのですか? 姫様、レイヴ様は姫様の側にいても問題のない貴重な男手です。確実にモノにしてください」
「思春期に対する認識が酷すぎるぞ!」
師匠のツッコミも、レムはどこ吹く風だ。
「え? だって思春期って発情期ですよね? 我々ゴーレム族と違って、他種族の方は十歳を過ぎると大根にも異様な興奮を覚えると聞いています。それに比べれば、生身に興奮しているレイヴ様は健全かと」
「姫様に興奮する時点で問題だ! 姫様。そもそも何故こんな奴を近衛兵なんかに?」
「それはレイヴが人間だからです」
姫様は、はっきりとした口調でそう答えた。逆に師匠は黙ってしまう。
「わたしは、此度の戦は悲しい誤解が生んだ悲劇だと思っております。かつて父上は言いました。人は魔族よりも弱い。だからこそ臆病で、自分たちよりも強い存在に恐怖する。いつか人間の地位をおびやかすのではないかと恐れ、猜疑心に駆られてしまう、と」
物憂げに表情を曇らせた姫様は、もう一度、強い意志で僕らに語った。
「だからこそ、祖国奪回と同時に、人間たちの誤解を解かなければなりません。魔族は邪悪な存在で人間の敵だという誤解を。しかしそれは我々魔族も同じこと。元来、我々魔族は人間たちに悪い感情を抱いていませんでした。しかし、此度の戦が原因で、魔族まで人間を嫌悪するようになってはいけません。そんなことになれば、祖国奪回後、人間界に攻め込むべきだと主張する魔族が現れるでしょう。そこで人間のレイヴです」
姫様の視線が、師匠から僕に移った。
「人間であるレイヴを、わたしの従者として侍らせ、その姿を臣民に見せつけるのです。そうすればみんな、此度の戦はごく一部の人間たちの暴走、人間みんなが悪いわけではない、そう思ってくれるはずです」
僕は感動した。
すごいや。そんな姫様はそんな先のことまで考えているんだ。
師匠も僕と同じ気持ちなんだと思う。あごに手を添えながら、感心した面持ちで姫様を眺めていた。
「もちろん、レイヴに同族殺しの協力なんてさせません。レイヴ、あなたは前線で戦わず、わたしと一緒に本陣に控えていてください。お願いできますか?」
僕の顔をのそきこむように、姫様はちょっと首をかしげた。
その仕草の可愛さと言ったら、僕の心臓にピンク色の矢を五本も六本も打ち込むような破壊力があった。
「師匠! 僕からもお願いします。魔界の未来のためにも、姫様に奉公させてください!」
僕がつい声をはずませると、師匠は難しい顔で唸ってしまった。
「う~む、レイヴを戦場に……」
「レイヴの身を案じているのですか? 聞いたところによれば、レイヴは人間と言っても長年、貴女の修行を受けた戦闘のエキスパートで、竜の心臓を埋め込まれ屈強な肉体を持つ超人とか。違うのですか?」
姫様の問いに、師匠が肩を落とす。
「レイヴ……キャストオフ!」
師匠は僕の服をつかむと、一瞬で全てを抜き取った。師匠得意の、脱衣魔法だ。
姫様は顔を真っ赤にしながら両手で目を隠し、レムは眉ひとつ動かさず、僕の下半身に視線を落としている。
中指と薬指のあいだから、大きな瞳をのぞかせる姫様。
僕は両手で股間を隠しながら、その場にうずくまった。
「しっ、ししょうおおおおおおおおおおおおお!」
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