第5話 魔王の姫が美少女すぎる
魔王城は、白い石造りのお城だ。
敷地内のなかでもやや小高い場所に作られたお城は、街からでもその上部が見える。
でも、こうして目の前にすると、その荘厳な雰囲気に圧倒された。
大理石なのかな?
とにかくぴかぴかの石階段を上った先に、お城の玄関が佇んでいる。
怖そうな衛兵たちが、師匠を見るなり頭を下げた。
師匠は短く返事をして、すたすた城に入って行った。
そういえば師匠は何度もお城に来ているんだよね。顔パスで入れるなんてすごいなぁ。
赤絨毯の布かれた、豪奢な内装のエントランスに僕がきょろきょろすると、師匠が僕の手をねじりあげる。
痛い。手がもげちゃいそう。
僕は涙をこらえながら師匠のあとをついていった。というか引っ張られた。
師匠は何度か階段を上り、長い廊下を抜けると、とあるドアの前で止まった。
急にノックを三回。それから師匠は口を開けた。
「姫。イアラでございます」
いつも通り、やや乱暴な言い方だけど、一応は敬語だった。
するとドアが僅かに開いて、ひとりの女の子が顔を出した。
「イアラ様ですね。おこし頂きありがとうございます。ではお入りください。姫様がお待ちです」
紫色の髪と眼をした、お人形さんのように可愛らし女の子だ。背は低いけれど、落ち着いた雰囲気でちょっと大人びて見えた。服装からすると、姫様付きの専属メイドかな?
「失礼します」
そう言って入室する師匠のうしろに続いて、僕は姫様の部屋に入った。
そういえば、姫様ってどんな人なんだろう?
なんて僕が思っていると、メイドさんが、
「姫様はこちらです」
「ッ…………」
姫様の部屋は、きっと立派な造りだったと思う。高そうな家具が置いているんだろうと思う。でも、僕はそのどれも確認できなかった。
だって、僕の視線はお姫様に釘付けだったから。
白いテーブルに座る、青いドレス姿の女の子が優しくほほ笑んだ。
「お久しぶりですねイアラ。今日の来てくれて感謝します」
か、かわいぃいいいいいいいいいいいいいいいいい‼‼
お姫様は、筆舌に尽くしがたいほどの美少女だった。
あまりにも可愛過ぎて、心が、はふはふして、何も考えられなくなる。
師匠みたいな、大人っぽい美貌とは違う、可愛らしさ。
かといって、幼女の幼い愛くるしさとも違う、可愛らしさ。
花のように可憐で、同時につぼみのような愛しさがあって、見ているこっちが恥ずかしくて、いますぐ床を転げ回りたくなる。
美しいものを例える表現で『花も恥じらう』という言葉がある。あれは、美しいものが敗北感を感じる、という意味だろう。でも、男の子も恥じらっちゃうよ。
だってこんな可愛い子、直視できないよ!
だって、こんなに可愛いんだよ!
「魔王様じきじきの呼び出しですからね。むげにはできませんよ。ところで魔王様はちゃんと体調管理しています?」
「ええ、兄は父上の跡を継いでから、祖国奪回のために奔走しております。ですが、あまりがんばりすぎないよう、わたしからよく言い含めてありますので。ところでイアラ、そちらの方が弟子の……えっと、具合が悪いのですか?」
姫様に声をかけられて、僕は心が、ふはふはして、何も考えられなくなる。
うわぁ、うわぁ。どうしよう。なにか答えないと。
姫様は僕になんて言ったっけ。え~っと……
メイド少女がひとこと。
「姫様、レイヴ様は姫様のお美しさに見惚れ、平常心を失っているのです」
「そんな、わたしは……」
姫様は、紅潮した頬に両手をあてて、ちょっとうつむいた。そんな姿も可愛くてたまらない。
「ご安心を。思春期男子が爆乳美少女を前にしたときの反応としては至極自然なものです。姫様は自身をもってその立派な胸を張ってください」
「レ、レム!」
言って、姫様は二倍も三倍も顔を赤くしながら、両手で自分の胸を抱き隠した。
姫様はあまりにも可愛いから、顔ばかり見ていた。でも、よくみると確かに大きな胸だった。すぐ隣に立つ、メイドのレムはぺたんこだから、対比でよりいっそう大きく見えてしまう。まぁ、それでも師匠のほうが大きいけど。
「こんのバカ弟子がぁ!」
師匠は素早く僕を担ぎ上げると、仰向けにした僕の背骨を逆エビ反りで折り曲げた。師匠得意の、アルゼンチンバックブリーカーだ。
「うぎゃああ! 背骨が折れるぅううう!」
「すいませんね姫様。いまこいつの胴体を千切るんで許して下さい」
師匠は僕の右足と首をがっちりホールドして、自分の肩に強く押しつける。
「いやぁあああ! 痛い! 師匠痛いです師匠! 十二番胸椎と一番腰椎が特に痛いです! だめ! 砕けちゃう! そんな乱暴にされたら僕、壊れちゃいます!」
「ん~、なかなかイイ声で鳴くなぁ。すいませんね姫様。うちのバカ弟子はこれぐらいしか能がないんですよ」
「師匠! いまミシって! ミシって音が!」
がたり、と姫様が立ちあがる音がした。
「離してあげてイアラ。レイヴの胴体が本当に千切れてしまいますっ」
僕の身を案じてくれる姫様。姫様は心の綺麗なんだなぁ。と僕は感動で涙をにじませた。
「ちっ、姫様に感謝しろよ」
僕の首を離した師匠は、僕の体を力任せに床に叩きつけた。それもうつぶせで。
床に顔面をうちつけた僕は心がくじけて、すぐには立てずその場で涙を流した。すると師匠は、僕のお尻をカカトで踏みつけはじめた。
「早く起きんかバカモノ!」
「うぅ、ごめんなさい師匠……」
僕が涙をちょちょぎれさせながら立ちあがると、師匠は僕の頭をばしばし叩いた。
「まぁそんなわけで姫様。こいつがうちの、役に立たない不肖のバカ弟子、レイヴでございます。こいつのことで話があるとはなんですか? 言っておきますけど『バカ弟子罪』というものを制定したいなら許して欲しいですね。弁護する自信ないんで」
「しっ、ししょうおおおおおおおおおお!」
僕は師匠に泣きつくけれど、師匠はガン無視だ。僕は自分が空気になったのかと錯覚してしまう。
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